大国主神 稲羽の素兎

鳥取市白兎

白兎海岸

出雲大社の「だいこくさまとしろうさぎ」

・・・・・

♪ だいこくさま

おおきなふくろを かたにかけ だいこくさまが きかかると ここにいなばの しろうさぎ かわをむかれて あかはだか

だいこくさまは あわれがり きれいなみずに みをあらい がまのほわたに くるまれと よくよくおしえて やりました

だいこくさまの いうとおり きれいなみずに みをあらい がまのほわたに くるまれば うさぎはもとの しろうさぎ

だいこくさまは だれだろう おおくにぬしの みこととて くにをひらきて よのひとを たすけなされた かみさまよ

・・・

子供の頃に覚えたこの童謡歌、いまでも口にだして歌うことができる。

また「因幡の白兎」の童話もよく覚えている。

原典は『古事記』だったのだ。

・・・

でも、『古事記』を読んで初めて知ったことがある。白兎しろうさぎではなく、素兎しろうさぎなのである。

だいこくさまに教わった通り、「がまのほわたにくるまれば、うさぎはもとのしろうさぎ」。

蒲の穂の色は白くはない。

野うさぎのような褐色、そうなんだ、だいこくさまに助けられたうさぎは白うさぎではなく、野うさぎだったのだ。

・・・・・

鳥取市白兎に、白兎神社がある。

・・・・・・・

『古事記』

大国主神

「稲羽の素兎」

故、此の大国主神の兄弟、八十神坐しき。然れども皆国は大国主神に避りき。避りし所以は、其の八十神、各稲羽の八上比売を婚はむの心有りて、共に稲羽に行きし時、大穴牟遅神に?を負せ、従者と為て率て往きき。是に気多の前に到りし時、裸の菟伏せりき。爾に八十神、其の菟に謂ひしく、「汝為むは、此の海塩を浴み、風の吹くに当りて、高山の尾の上に伏せれ。」といひき。故、其の菟、八十神の教に従ひて伏しき。爾に其の塩乾く随に、其の身の皮悉に風に吹き拆かえき。故、痛み苦しみて泣き伏せれば、最後に来りし大穴牟遅神、其の菟を見て、「何由も汝は泣き伏せる。」と言ひしに、菟答へ言ししく、「僕淤岐の島に在りて、此の地に度らむとすれども、度らむ因無かりき。故、海の和迩を欺きて言ひしく、『吾と汝と競べて、族の多き少きを計へてむ。故、汝は其の族の在りの随に、悉に率て来て、此の島より気多の前まで、皆列み伏し度れ。爾に吾其の上を蹈みて、走りつつ読み度らむ。是に吾が族と孰れか多きを知らむ。』といひき。如此言ひしかば、欺かえて列み伏せりし時、吾其の上を蹈みて、読み度り来て、今地に下りむとせし時、吾云ひしく、『汝は我に欺かえつ。』と言ひ竟はる即ち、最端に伏せりし和迩、我を捕へて悉に我が衣服を剥ぎき。此れに因りて泣き患ひしかば、先に行きし八十神の命以ちて、『海塩を浴み、風に当りて伏せれ。』と誨へ告りき。故、教の如く為しかば、我が身悉に傷はえつ。」とまをしき。是に大穴牟遅神、其の菟に教へ告りたまひしく、「今急かに此の水門に往き、水を以ちて汝が身を洗ひて、即ち其の水門の蒲黄を取りて、敷き散らして、其の上に輾転べば、汝が身本の膚の如、必ず差えむ。」とのりたまひき。故、教の如為しに、其の身本の如くになりき。此れ稲羽の素菟なり。今者に菟神と謂ふ。故、其の菟、大穴牟遅神に白ししく、「此の八十神は、必ず八上比売を得じ。を負へども、汝命獲たまはむ。」とまをしき。

・・・・・・・

『因幡国風土記』逸文

白兎

因幡の記をみれば、かの國に高草のこほりあり。その名に二の釋あり。一には野の中に草のたかければ、たかくさと云ふ。その野をこほりの名とせり。一には竹草の郡なり。この所にもと竹林ありけり。其の故にかく云へり。(竹は草の長と云ふ心にて竹草とは云ふにや。)其の竹の事をあかすに、昔この竹の中に老たる兎すみけり。あるとき、にはかに洪水いできて、その竹はら、水になりぬ。浪あらひて竹の根をほりければ、皆くづれそんじけるに、うさぎ竹の根にのりてながれける程に、おきのしまにつきぬ。又水かさおちて後、本所にかへらんと思へども、わたるべきちからなし。其の時、水の中にわにと云ふ魚ありけり。此の兎、わににいふやう、「汝がやからは何ほどかおほき」。わにのいふやう、「一類おほくして海にみちみてり」と云ふ。兎のいはく、「我がやからはおほくして山野に満てり。まづ汝が類の多少をかずへむ。このしまより氣多の崎と云ふ所までわにをあつめよ。一々にわにのかずをかずへて、類のおほき事をしらむ」。わに、うさぎにたばかされて、親族をあつめて、せなかをならべたり。其の時、兎、わにどものうへをふみて、かずをかずへつつ竹のさきへわたりつきぬ。其の後、今はしをほせつと思て、わにどもにいふやう、「われ、汝をたばかりて、ここにわたりつきぬ。實には親族のおほきをみるにあらず」とあざけるに、みぎはにそへるわに、はらだちて、うさぎをとらへて、きものをはぎつ。(かくいふ心は、兎の毛をはぎとりて、毛もなき兎になしたりけり。)それを大己貴の神のあはれみ給て、をしへ給ふよう、「かまのはなをこきちらして、其のうへにふしてまろべ」との給ふ。をしへのままにするとき、多の毛もとのごとくいできにけりと云へり。わにのせなかをわたりてかぞふる事をいふには兎踏其上讀來渡と云へり。

←次へ              次へ→

記紀の旅上巻一覧表に戻る

記紀の旅

『古事記』 『日本書紀』 『風土記』

万葉集を携えて

inserted by FC2 system