巻十一 2351〜2516

萬葉集 巻第十一

旋頭歌(せどうか)

2351 (にひ)(むろ)の (かべ)(くさ)刈りに いましたまはね 草のごと 寄り合ふ娘子(をとめ)は 君がまにまに
2352 (にひ)(むろ)を ()(しづ)むる子し 手玉(ただま)鳴らすも 玉のごと 照らせる君を (うち)にと(まを)
2353 (はつ)()の ()(つき)(した)に 我が(かく)せる(つま) あかねさし 照れる月夜(つくよ)に 人見てむかも   
2354 ますらをの 思ひ乱れて 隠せるその妻 天地(あまつち)に 通り照るとも あらはれめやも
2355 (うつく)しと 我が思ふ(いも)は (はや)も死なぬか ()けりとも 我れに寄るべしと 人の言はなくに
2356 高麗(こま)(にしき) (ひも)(かた)()ぞ (とこ)に落ちにける 明日(あす)()し ()なむと言はば 取り置きて待たむ
2357 (あさ)()()の 君が足結(あゆひ)を ()らす(つゆ)(はら) 早く起き ()でつつ我れも ()(すそ)()らさな
2358 何せむに (いのち)をもとな 長く()りせむ ()けりとも 我が思ふ(いも)に やすく逢はなくに
2359 (いき)()に 我れは思へど 人目(ひとめ)多みこそ 吹く風に あらばしばしば 逢ふべきものを
2360 人の親 娘子(をとめ)()()ゑて 守山(もりやま)()から (あさ)()な (かよ)ひし君が ()ねば悲しも
2361 (あめ)にある 一つ(たな)(はし) いかにか行かむ 若草の 妻がりと言はば (あし)(かざ)りせむ
2362 山背(やましろ)の 久世(くせ)若子(わくご)が ()しと言ふ我れ あふさわに 我れを欲しと言ふ 山背の久世   故地

右の十二首は、柿本朝臣人麻呂が歌集に出づ。


2363 (をか)(さき) ()みたる(みち)を 人な(かよ)ひそ ありつつも 君が()まさむ ()き道にせむ
2364 (たま)(だれ)の ()()のすけきに ()り通ひ()ね たらちねの 母が()はさば (かぜ)(まを)さむ
2365 うちひさす (みや)()に逢ひし 人妻(ひとづま)ゆゑに (たま)()の 思ひ乱れて ()()しぞ多き
2366 まそ(かがみ) 見しかと思ふ (いも)も逢はぬかも (たま)()の ()えたる恋の (しげ)きこのころ
2367 海原(うなばら)の 道に乗りてや 我が恋ひ()らむ (おほ)(ぶね)の ゆたにあるらむ 人の子ゆゑに

右の五首は、古歌集の中に出づ。

(せい)(じゅつ)(しん)(しょ)
2368 たらちねの 母が()(はな)れ かくばかり すべなきことは いまだせなくに
2369 人の()る (うま)()()ずて はしきやし 君が目すらを ()りし嘆かむ
2370 恋ひ死なば 恋ひも死ねやと (たま)(ほこ)の 道行く人の (こと)()らなく
2371 心には 千重(ちへ)に思へど 人に言はぬ 我が(こひ)(づま)を 見むよしもがも
2372 かくばかり 恋ひむものぞと 知らませば 遠くも()べく ありけるものを
2373 いつはしも 恋ひぬ時とはあらねども (ゆふ)かたまけて (こひ)はすべなし
2374 かくのみし 恋ひやわたらむ たまきはる (いのち)も知らず 年は()につつ
2375 我れゆ(のち) 生まれむ人は 我がごとく (こひ)する道に あひこすなゆめ
2376 ますらをの (うつ)(ごころ)も 我れはなし (よる)(ひる)といはず 恋ひしわたれば
2377 何せむに (いのち)()ぎけむ 我妹子(わぎもこ)に 恋ひぬ(さき)にも 死なましものを
2378 よしゑやし ()まさぬ君を 何せむに いとはす我れは 恋ひつつ()らむ
2379 見わたせば 近き渡りを た(もとほ)り 今か()ますと 恋ひつつぞ()
2380 はしきやし ()()ふれかも (たま)(ほこ)の (みち)見忘(みわす)れて 君が()まさぬ
2381 君が目を 見まく()りして この(ふた)() 千年(ちとせ)のごとも 我れは恋ふるかも
2382 うちひさす (みや)()を人は 満ち行けど 我が思ふ君は ただひとりのみ
2383 世の中は (つね)かくのみと 思へども はたた忘れず なほ恋ひにけり
2384 我が()()は (さき)くいますと 帰り()と 我れに()()む 人も()ぬかも
2385 あらたまの 五年(いつとせ)()れど 我が(こひ)の (あと)なき恋の やまなくもあやし
2386 (いはほ)すら 行き通るべき ますらをも (こひ)といふことは (のち)()いにけり
2387 ()(なら)べば 人知りぬべし 今日(けふ)の日は 千年(ちとせ)のごとも ありこせぬかも
2388 立ちて()て たづきも知らず 思へども (いも)に告げねば 間使(まつかひ)()
2389 ぬばたまの この()な明けそ 赤らひく (あさ)行く君を 待たば苦しも
2390 恋するに 死するものに あらませば 我が身は()たび 死にかへらまし
2391 玉かぎる 昨日(きのふ)(ゆふへ) 見しものを 今日(けふ)(あした)に 恋ふべきものか
2392 なかなかに 見ずあらましを (あひ)()てゆ 恋しき心 まして思ほゆ
2393 (たま)(ほこ)の 道行かずあらば ねもころの かかる恋には あはざらましを
2394 (あさ)(かげ)に 我が身はなりぬ 玉かきる ほのかに見えて いにし子ゆゑに
2395 行き行きて 逢はぬ(いも)ゆゑ ひさかたの (あめ)(つゆ)(しも)に ()れにけるかも
2396 たまさかに 我が見し人を いかならむ よしをもちてか また人目(ひとめ)見む
2397 しましくも 見ねば恋しき 我妹子(わぎもこ)を ()()()れば (こと)(しげ)けく
2398 たまきはる よまでと定め 頼みたる 君によりてし (こと)(しげ)けく
2399 赤らひく (はだ)()れずて ()ぬれども 心は()には 我が思はなくに
2400 いで何か ここだはなはだ 利心(とごころ)の ()するまで思ふ 恋ゆゑにこそ
2401 恋ひ死なば 恋ひも死ねとか 我妹子(わぎもこ)が 我家(わぎへ)(かど)を 過ぎて行くらむ
2402 (いも)があたり 遠くも見れば あやしくも 我れは恋ふるか 逢ふよしなしに
2403 久世(くせ)の 清き川原(かはら)に みそぎして (いは)(いのち)は (いも)がためこそ
2304 思ひ()り 見ては寄りにし ものにあれば (ひと)()(あひだ)も 忘れて思へや
2405 (かき)ほなす 人は言へども 高麗錦(こまにしき) (ひも)()()けし 君ならなくに
2406 高麗錦(こまにしき) (ひも)()()けて (ゆふへ)だに 知らずある(いのち) 恋ひつつかあらむ
2307 (もも)(さか)の 船(かく)()る ()(うら)さし 母は問ふとも その名は()らじ
2408 (まよ)()()き (はな)(ひも)()け 待つらむか いつかも見むと 思へる我れを
2409 君に恋ひ うらぶれ()れば (くや)しくも 我が(した)(びも)の ()()いたづらに
2410 あらたまの 年は()つれど (しき)(たへ)の (そで)()へし子を 忘れて思へや
2411 (しろ)(たへ)の 袖をはつはつ 見しからに かかる恋をも 我れはするかも
2412 我妹子(わぎもこ)に 恋ひすべながり (いめ)に見むと 我れは思へど ()ねらえなくに
2413 (ゆゑ)もなく 我が(した)(びも)を ()けしめて 人にな知らせ (ただ)に逢ふまでに
2414 恋ふること (なぐさ)めかねて ()でて行けば 山を川をも 知らず来にけり

()(ぶつ)(ちん)()
2415 娘子(をとめ)らを (そで)()()(やま)の 瑞垣(みづがき)の 久しき時ゆ 思ひけり我れは
2416 ちはやぶる 神の持たせる (いのち)をば ()がためにかも 長く()りせむ
2417 石上(いそのかみ) ()()(かむ)(すぎ) (かむ)さびて 恋をも我れは さらにするかも
2418 いかならむ ()()(かみ)にし ()()けせば 我が思ふ(いも)を (いめ)にだに見む
2419 天地(あめつち)と いふ名の()えて あらばこそ (いまし)と我れと 逢ふことやまめ
2420 月見れば 国は同じぞ 山へなり (うつく)(いも)は へなりたるかも
2421 ()る道は (いは)()む山は なくもがも 我が待つ君が 馬つまづくに
2422 岩根(いはね)()む へなれる山は あらねども 逢はぬ日まねみ 恋ひわたるかも
2423 道の(しり) (ふか)津島(つしま)(やま) しましくも 君が()見ねば 苦しくありけり
2424 (ひも)(かがみ) 能登香(のとか)の山の ()がゆゑか 君来ませるに (ひも)()かず()
2425 山科(やましな)の 木幡(こはた)の山を 馬はあれど 徒歩(かち)より我が()し ()を思ひかねて
2426 (とほ)(やま)に (かすみ)たなびき いや(とほ)に (いも)()見ねば 我れ恋ひにけり
2427 宇治(うぢ)(かは)の 瀬々(せぜ)のしき波 しくしくに (いも)は心に 乗りにけるかも   故地
2428 ちはや人 宇治(うぢ)の渡りの 瀬を早み 逢はずこそあれ (のち)も我が妻
2429 はしきやし 逢はぬ子ゆゑに いたづらに 宇治(うぢ)(かは)の瀬に ()(すそ)濡らしつ
2430 宇治(うぢ)(かは)の (みな)(あわ)さかまき 行く水の 事かへらずぞ 思ひそめてし
2431 (かも)(がは)の (のち)()(しづ)けく (のち)も逢はむ (いも)には我れは 今ならずとも
2432 (こと)()でて 言はばゆゆしみ 山川(やまかは)の たぎつ心を ()かへたりけり
2433 水の(うへ)に 数書くごとき 我が(いのち) (いも)に逢はむと うけひつるかも
2434 荒磯(ありそ)()し (ほか)行く波の 外心(ほかごころ) 我れは思はじ 恋ひて死ぬとも
2435 淡海(あふみ)(うみ) (おき)白波(しらなみ) 知らずとも (いも)がりといはば (なぬ)()越え()む   故地
2436 (おほ)(ぶね)の ()(とり)の海に いかり()ろし いかなる人か 物思はずあらむ
2437 (おき)()を (かく)さふ波の 五百(いほ)()(なみ) 千重(ちへ)しくしくに 恋ひわたるかも
2438 (ひと)(ごと)は しましぞ我妹(わぎも) (つな)()引く 海ゆまさりて 深くしぞ思ふ
2439 淡海(あふみ)(うみ) (おき)島山(しまやま) (おく)まけて 我が思ふ(いも)を (こと)(しげ)けく   故地
2440 淡海(あふみ)(うみ) 沖()ぐ舟の いかり()ろし (しの)びて君が (こと)待つ我れぞ
2441 (こも)()の (した)ゆ恋ふれば すべをなみ (いも)が名()りつ ()むべきものを
2442 (おほ)(つち)は 取り(つく)すとも 世の中の 尽しえぬものは 恋にしありけり
2443 (こも)りどの (さは)(いづみ)にある 岩が根も 通してぞ思ふ 我が恋ふらくは
2444 (しら)真弓(まゆみ) (いし)()の山の 常盤(ときは)なる (いのち)なれやも 恋ひつつ()らむ    故地 
2445 淡海(あふみ)(うみ) (しづ)(しら)(たま) 知らずして 恋せしよりは 今こそまされ
2446 白玉(しらたま)を ()きてぞ持てる 今よりは 我が玉にせむ 知れる時だに
2447 白玉(しらたま)を 手に()きしより 忘れじと 思ひけらくは 何か(をは)らむ
2448 白玉(しらたま)の (あひだ)()けつつ ()ける()も くくり寄すれば (のち)もあふものを
2449 香具山(かぐやま)に (くも)()たなびき おほほしく (あひ)見し子らを (のち)恋ひむかも
2450 (くも)()より さ渡る月の おほほしく (あひ)見し子らを 見むよしもがも
2451 (あま)(くも)の 寄り合ひ遠み 逢うはずとも (あた)()(まくら) 我れまかめやも
2452 雲だにも しるくし立たば (なぐさ)めて 見つつも()らむ (ただ)に逢ふまでに
2453 (はる)(やなぎ) 葛城山(かづらきやま)に 立つ雲の 立ちても()ても (いも)をしぞ思ふ    故地 
2454 春日山(かすがやま) (くも)()(かく)りて (とほ)けども (いへ)は思はず 君をしぞ思ふ
2455 我がゆゑに 言はれし(いも)は (たか)(やま)の (みね)(あさ)(ぎり) 過ぎにけむかも
2456 ぬばたまの 黒髪(くろかみ)(やま)の (やま)(すげ)に 小雨(こさめ)()りしき しくしく思ほゆ   
2457 大野(おほの)らに 小雨()降りしく ()(もと)に 時と寄り()ね 我が思ふ人
2458 (あさ)(しも)の ()なば()ぬべく 思ひつつ いかにかこの()を 明かしてむかも
2459 我が()()が 浜行く風の いや(はや)に (こと)を早みか いや逢はずあらむ
2460 遠き(いも)が ()()け見つつ (しの)ふらむ この月の(おも)に 雲なたなびき
2461 山の()を 追ふ三日月(みかづき)の はつはつに (いも)をぞ見つる 恋しきまでに
2462 我妹子(わぎもこ)し 我れを思はば まそ(かがみ) 照り()づる月の (かげ)に見え()
2463 ひさかたの (あま)照る月の (かく)りなば 何になそへて (いも)(しの)はむ
2464 三日月(みかづき)の さやにも見えず (くも)(がく)り 見まくぞ()しき うたてこのころ
2465 我が()()に 我が恋ひ()れば 我がやどの 草さへ思ひ うらぶれにけり
2466 (あさ)()(はら) 小野(をの)(しめ)()ふ (むな)(こと)を いかなりと言ひて 君をし待たむ   
2467 道の()の (くさ)(ふか)百合(ゆり)の (ゆり)もと言ふ (いも)(いのち)を 我れ知らめやも   
2468 (みなとあし)に 交れる草の しり(くさ)の 人皆知りぬ 我が(した)()ひは    
2469 (やま)ぢさの (しら)(つゆ)(おも)み うらぶれて 心も深く 我が恋やまず   
2470 (みなと)に さ()()小菅(こすげ) ぬすまはず 君に恋ひつつ ありかてぬかも
2471 (やま)(しろ)の (いづみ)小菅(こすげ) なみなみに (いも)が心を 我が思はなくに   故地
2472 見わたしの ()(むろ)の山の 巌菅(いはほすげ) ねもころ我れは 片思(かたもひ)ぞする
2473 (すが)の根の ねもころ君が 結びてし 我が(ひも)()を ()く人あらじ
2474 (やま)(すげ)の 乱れ恋のみ せしめつつ 逢はぬ妹かも 年は()につつ   
2475 我がやどは (のき)しだ草 ()ひたれど 恋(わす)(ぐさ) 見れどいまだ()ひず    
2476 打つ田には (ひえ)はしあまた ありといへど ()らえし我れぞ 夜をひとり()
2477 あしひきの ()()(やま)(すげ) 押し伏せて 君し結ばば 逢はずあらめやも
2478 (あき)(かしは) 潤和(うるわ)川辺(かはへ)の 小竹(しの)()の 人には(しの)び 君に()へなくに
2479 さね(かづら) (のち)も逢はむと (いめ)のみに うけひわたりて 年は()につつ   
2480 道の()の いちしの花の いちしろく 人皆知りぬ 我が(こひ)(づま)   
2481 大野らに たづきも知らず (しめ)()ひて ありかつましじ 我が恋ふらくは
2482 (みな)(そこ)に ()ふる(たま)()の うち(なび)き 心は寄りて 恋ふるこのころ
2483 (しき)(たへ)の 衣手(ころもで)()れて (たま)()なす (なび)きか()らむ ()を待ちかてに
2484 (きみ)()ずは 形見(かたみ)にせむと 我がふたり 植ゑし松の木 君を待ち()でむ
2485 (そで)振らば 見ゆべき限り 我れはあれど その(まつ)()に (かく)らひにけり
2486 ()()(うみ)の 浜辺(はまへ)小松(こまつ) ()(ふか)めて 我れ恋ひわたる 人の子ゆえに

或本の歌に曰はく  ()()(うみ)の (しお)()小松(こまつ) ねもころに 恋ひやわたらむ 人の子ゆゑに


2487 奈良山の 小松(こまつ)(うれ)の うれむぞは 我が思ふ(いも)に ()はずやみなむ
2488 (いそ)(うへ)に 立てるむろの木 ねもころに 何しか深め 思ひそめけむ   
2489 (たちばな)の (もと)に我を立て (しづえ)枝取り ならむや君と 問ひし子らはも   
2490 (あま)(くも)に (はね)打ちつけて 飛ぶ(たづ)の たづたづしかも 君しいまさねば
2491 (いも)に恋ひ ()ねぬ(あさ)()に 鴛鴦(をしどり)の こゆかく渡る (いも)使(つかひ)
2492 思ひにし あまりにしかば にほ(どり)の なづさひ()しを 人見けむかも
3493 高山(たかやま)の (みね)行くししの 友を多み (そで)振らず()ぬ 忘ると思ふな
2494 (おほ)(ふね)に ()(かぢ)しじ()き ()ぐほとも ここだ恋ふるを 年にあらばいかに
2495 たらつねの 母が()()の (まよ)(ごも)り (こも)れる(いも)を 見むよしもがも
2496 (こま)(ひと)の (ぬかがみ)()へる (しめ)木綿(ゆふ)の ()みにし心 我れ忘れめや
2497 隼人(はやひと)の 名に()()(ごゑ)の いちしろく 我が名は()りつ 妻と頼ませ
2498 剣大刀(つるぎたち) (もろ)()()きに 足()みて 死なば死なむよ 君によりては
2499 我妹子(わぎもこ)に 恋ひしわたれば 剣大刀(つるぎたち) 名の()しけくも 思ひかねつも
2500 (あさ)(づき)の ()(むか)黄楊(つげ)(くし) ()りぬれど 何しか君が 見れど()かざらむ
2501 (さと)(とほ)み 恋ひうらぶれぬ まそ(かがみ) (とこ)()去らず (いめ)に見えこそ
2502 まそ(かがみ) 手に取り持ちて (あさ)()な 見れども君は ()くこともなし
2503 (ゆふ)されば (とこ)()去らぬ 黄楊(つげ)(まくら) 何しか()れが (ぬし)待ちかたき
2504 ()(きぬ)の 恋ひ乱れつつ ()真砂(まなご) ()きても我れは ありわたるかも
2505 梓弓(あづさゆみ) 引きてゆるさず あらませば かかる恋には あはずあらましを
2506 (こと)(だま)の 八十(やそ)(ちまた)に 夕占(ゆふけ)問ふ (うら)まさに()る (いも)(あひ)()らむ
2507 (たま)(ほこ)の 道行き(うら)に (うらな)へば (いも)()はむと 我れに()りつも

問答(もんだふ)
2508 すめろきの (かみ)()(かど)を (かしこ)みと さもらふ時に 逢へる君かも
2509 まそ鏡 ()とも言はめや 玉かぎる (いは)(かき)(ふち)の (こも)りてある妻

右の二首


2510 (あか)(ごま)が ()()(はや)けば (くも)()にも (こも)り行かむぞ (そで)まけ我妹(わぎも)
2511 こもりくの (とよ)(はつ)()()は 常滑(とこなめ)の かしこき道ぞ ()が心ゆめ
2512 (うま)(さけ)の みもろの山に 立つ月の ()()し君が 馬の(おと)ぞする

右の三首


2513 鳴る(かみ)の 少し(とよ)みて さし曇り 雨も降らぬか 君を(とど)めむ
2514 鳴る(かみ)の 少し(とよ)みて 降らずとも 我は(とど)まらむ (いも)(とど)めば

右の二首


2515 (しき)(たへ)の (まくら)(とよ)みて 夜も寝ず 思ふ人には (のち)も逢ふものを
2516 (しき)(たへ)の 枕は人に (こと)とへや その枕には (こけ)()しにけり

右の二首

以前(さき)の一百四十九首は、柿本朝臣人麻呂が歌集に出づ。

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