巻十三 3284〜3347

3284 (すが)の根の ねもころごろに 我が思へる (いも)によりては (こと)()みも なくありこそと 斎瓮(いはひへ)を (いは)ひ掘り()ゑ 竹玉(たかたま)を ()なく()()れ 天地(あめつち)の 神をぞ我が?()む いたもすべなみ

(かむが)ふるに、「(いも)によりては」と言ふべからず。まさみ「君により」と()ふべし。なにぞとならば、すなはち反歌に「君がまにまに」と云へればぞ。

反歌
3285 たらちねの (はは)にも言はず つつめりし 心はよしゑ 君がまにまに

或本の歌に()はく
3286 玉たすき ()けぬ時なく 我が思へる 君によりては しつ(ぬさ)を 手に取り持ちて (たか)(たま)を (しじ)()()れ 天地(あめつち)の 神をぞ我が?()む いたもすべなみ

反歌
3287 天地(あめつち)の 神を祈りて 我が恋ふる 君いかならず 逢はずあらめやも

或本の歌に()はく
3288 大船の 思ひ頼みて さな(かづら) いや遠長く 我が思へる 君によりては (こと)(ゆゑ)も なくありこそと ()綿()たすき (かた)に取り()け (いはひへ)瓮を (いは)ひ掘り()ゑ 天地(あめつち)の 神にぞ我が?()む いたもすべなみ   

右の五首

3289 ()かしを (つるぎ)の池の (はち)(すば)に ()まれる水の ゆくへなみ 我がする時に 逢ふべしと 逢ひたる君を な()ねそと 母聞こせども 我が心 (きよ)(すみ)の池の 池の底 我れは忘れじ (ただ)に逢ふまでに    故地 

反歌
3290 いにしへの 神の時より 逢ひけらし 今の心も (つね)忘らえず

右の二首
3291 み吉野の 真木(まき)立つ山に 青く()ふる (やま)(すが)の根の ねもころに 我が思ふ君は 大君の ()けのまにまに (ひな)(ざか)る 国(をさ)めにと (むら)(とり)の (あさ)()ちいなば (おく)れたる 我れか恋ひむな 旅ならば 君か(しの)はむ 言はむすべ ()むすべ知らず ()(つた)の 行きの 別れのあまた 惜しきものかも   

反歌
3292 うつせみの (いのち)を長く ありこそと ()まれる我れは (いは)ひて待たむ

右の二首

3293 吉野(よしの)の ()(かね)(たけ)に ()なくぞ 雨は降るといふ 時じくぞ 雪は降るといふ その雨の 間なきがごと その雪の 時じきがごと 間もおちず 我れはぞ恋ふる (いも)(ただ)()

反歌
3294 み雪降る 吉野(よしの)(たけ)に ()る雲の (よそ)に見し子に 恋ひわたるかも

右の二首

3295 うちひさつ 三宅の原ゆ 直土(ひたつち)に 足()()き 夏草を 腰になづみ いかなるや 人の子ゆゑぞ 通はすも()() うべなうべな 母は知らじ うべなうべな 父は知らじ (みな)(わた) か(ぐろ)き髪に ()()綿()もち あざさ()ひ垂れ 大和(やまと)の 黄楊(つげ)()(ぐし)を 押へ刺す うらぐはし子 それぞ我が妻    

反歌
3296 父母(ちちはは)に 知らせぬ子ゆゑ 三宅(みやけ)()の 夏野の草を なづみ()るかも

右の二首

3297 玉たすき ()けぬ時なく 我が思ふ (いも)にし逢はねば あかねさす 昼はしみらに ぬばたまの 夜はすがらに ()も寝ずに (いも)に恋ふるに ()くるすべなし   

反歌
3298 よしゑやし 死なむよ我妹(わぎも) ()けりとも かくのみこそ我が 恋ひわたりなめ

右の二首

3299 見わたしに (いも)らは立たし この(かた)に 我れは立ちて 思ふそら 安けなきに 嘆くそら 安けなきに さ()()りの 小舟(をぶね)もがも (たま)()きの ()(かじ)もがも ()ぎ渡りつつも 語らはましを

或本の歌の頭句には「こもりくの (はつ)()の川の (をち)(かた)に (いも)らは立たし この方に 我れは立ちて」といふ。
右の一首


3300 おしてる 難波(なには)の崎に 引き(のぼ)る (あけ)のそほ(ぶね) そほ舟に 綱取り()け 引こづらひ ありなみすれど 言ひづらひ ありなみすれど ありなみえずぞ 言はえ( )し我が

右の一首

3301 (かむ)(かぜ)の 伊勢(いせ)の海の 朝なぎに ()()(ふか)海松(みる) 夕なぎに 来寄る(また)海松(みる) (ふか)海松(みる)の 深めし我れを (また)海松(みる)の また行き帰り 妻と言はじとかも 思ほせ( )

右の一首

3302 紀伊()の国の ()()()()に 千年(ちとせ)に (さは)ることなく 万代(よろづよ)に かくしもあらむと 大船(おほぶね)の 思ひ頼みて 出立(いでたち)の 清き(なぎさ)に 朝なぎに ()寄る深海松(ふかみる) 夕なぎに 来寄る繩海苔(なはのり) 深海松の 深めし子らを 繩海苔の 引けば()ゆとや 里人(さとびと)の 行きの(つど)ひに 泣く子なす 行き取り(さぐ)り 梓弓(あづさゆみ) 弓腹(ゆばら)振り(おこ)し しのぎ()を 二つ手挟(たばさ)み 放ちけむ 人し(くや)しも 恋ふらく思へば

右の一首

3303 (さと)(びと)の 我れに()ぐらく ()が恋ふる うるはし(づま)は 黄葉(もみちば)の 散り(まが)ひたる (かむ)なびの この(やま)()から ぬばたまの (くろ)()に乗りて 川の瀬を 七瀬渡りて うらぶれて (つま)は逢ひきと 人ぞ()げつる

反歌
3304 聞かずして (もだ)もあらましを 何しかも 君が(ただ)()を 人の()げつる

右の二首

問答(もんだふ)
3305 物思はず 道行く行くも 青山を 振り()け見れば  つつじ花 にほえ娘子(をとめ) 桜花(さくらばな) (さか)娘子(をとめ) ()れをぞも 我れに寄すといふ 我れをもぞ 汝れに寄すといふ (あら)(やま)も 人し寄すれば 寄そるとぞいふ 汝が心ゆめ    

反歌
3306 いかにして 恋やもものぞ 天地(あめつち)の 神に祈れど 我れは思ひ増す
3307 しかれこそ 年の()(とせ)を 切り髪の よち子を過ぎ (たちばな)の ほつ()()ぎて この川の (した)にも長く 汝が心待て   

反歌
3308 天地(あめつち)の 神をも我れは 祈りてき 恋といふものは かつてやまずけり

柿本朝臣人麻呂が集の歌
3309 物思はず 道行く行くも 青山を 振り()け見れば  つつじ花 にほえ娘子(をとめ) 桜花(さくらばな) (さか)娘子(をとめ) ()れをぞも 我れに寄すといふ 我れをぞも 汝れに寄すといふ 汝はいかに思ふや 思へこそ 年の()(とせ)を 切り髪の よち子を過ぎ (たちばな)の ほつ()をすぐり この川の (した)にも長く 汝が心待て

右の五首

3310 こもりくの (はつ)()の国に さよばひに 我が来れば たな(ぐも)り 雪は降り() さ曇り 雨は降り() 野つ鳥 (きぎし)(とよ)む 家つ鳥 (かけ)も鳴く さ()は明け この()は明けぬ 入りてかつ()む この戸開かせ

反歌
3311 こもりくの (はつ)()()(ぐに)に 妻しあれば (いし)()めども なほし()にけり
3312 こもりくの (はつ)()()(ぐに)に よばひせす 我がすめろきよ (おく)(とこ)に 母は()ねたり ()(どこ)に 父は()ねたり 起き立てば 母は知りぬべし 出でて行かば 父知りぬべし ぬばたまの ()()けゆきぬ ここだくも 思ふごとならぬ (こも)(づま)かも

反歌
3313 川の瀬の (いし)()み渡り ぬばたまの (くろ)()来る()は (つね)にあらぬかも

右の四首

3314 つぎねふ (やま)(しろ)()を (ひと)(づま)の 馬より行くに 己夫(おのづま)し 徒歩(かち)より()けば 見るごとに ()のみし泣かゆ そこ思ふに 心し痛し たらちねの 母が形見と 我が持てる まそみ鏡に 蜻蛉(あきつ)領巾(ひれ) ()()め持ちて 馬買へ我が()   

反歌
3315 (いづみ)(かは) 渡り()深み 我が()()が 旅行き(ごろも) ()()たむかも   故地

或本の反歌に()はく
3316 まそ鏡 持てれど我れは (しるし)なし 君が徒歩(かち)より なづみ行く見れば
3317 馬買はば (いも)徒歩(かち)ならむ よしゑやし 石は()むとも 我はふたり行かむ

右の四首

3318 紀伊()の国の 浜に寄るといふ (あはび)(たま) (ひり)はむと言ひて (いも)の山 ()の山越えて 行きし君 いつ来まさむと (たま)(ほこ)の 道に()で立ち (ゆふ)(うら)を 我が問ひしかば 夕占の 我れに()らく 我妹子(わぎも)や ()が待つ君は 沖つ波 来寄る白玉(しらたま) ()つ波の 寄する白玉 求むとぞ 君が来まさむ (ひり)ふとぞ 君は来まさむ (ひさ)ならば いま七日(なぬか)ばかり 早くあらば いま二日(ふつか)ばかり あらむとぞ 君は聞こしし な恋ひそ我妹

()反歌
3319 (つゑ)つきも つかずも我れは 行かめども 君が()まさむ 道の知らなく
3320 (ただ)に行かず こゆ巨勢道(こせぢ)から (いは)()()み 求めぞ我が()し 恋ひてすべなみ   故地
3321 ()()けて 今は明けぬと 戸を()けて 紀伊()へ行く君を いつとか待たむ
3322 (かど)()し 郎子(いらつこ)()()に (いた)るとも いたくし恋ひば 今帰り()

右の五首

()()()

3323 しなたつ 筑紫(つくし)さのかた (おき)(なが)の ()()小菅(こすげ) ()まなくに い刈り持ち() 敷かなくに い刈り持ち来て 置きて 我れを(しの)はす 息長の 遠智の小菅

右の一首

挽歌(ばんか)
3324 かけまくも あやに(かしこ)し 藤原(ふぢはら)の 都しみみに 人はしも 満ちてあれども 君はしも 多くいませど 行き(むか)ふ 年の()長く (つか)()し 君の()(かど)を (あめ)のごと (あふ)ぎて見つつ 畏けど 思ひ頼みて いつしかも 日足(ひた)らしまして 望月(もちづき)の (たたは)しけむと 我が思ふ 皇子(みこ)(みこと)は 春されば (うゑ)(つき)(うへ)の 遠つ人 松の(した)()ゆ 登らして (くに)()遊ばし (ながつき)月の しぐれの秋は (おほ)殿(どの)の (みぎり)しみみに 露負ひて (なび)ける(はぎ)を 玉たすき ()けて(しの)はし み雪降る 冬の(あした)は ()(やなぎ) ()()(あづさ)を (おほ)()()に 取らしたまひて 遊ばしし 我が(おほ)(きみ)を 霞立つ 春の日暮らし まそ鏡 見れど()かねば 万代(よろづよ)に かくしもがもと 大船の 頼める時に 泣く我れ 目かも(まと)へる 大殿を ()()け見れば (しろ)(たへ)に (かざ)りまつりて うちひさす 宮の舎人(とねり)も (たへ)のほの (あさ)(ぎぬ)()れば (いめ)かも うつつかもと (くも)()の (まと)へる(あひだ)に あさもよし (きの)()の道ゆ つのさはふ (いは)()を見つつ (かむ)(はぶ)り (はぶ)りまつれば 行く道の たづきを知らに 思へども (しるし)をなみ 嘆けども (おく)()をなみ (おほ)()(そで) 行き()れし松を (こと)とはぬ 木にはありとも あらたまの 立つ月ごとに (あま)の原 振り放け見つつ 玉たすき ()けて(しの)はな (かしこ)くあれども

反歌
3325 つのさはふ (いは)()の山に (しろ)(たへ)に かかれる雲は 大君にかも

右の二首

3326 ()()(しま)の 大和(やまと)の国に いかさまに 思ほしめせか つれもなき 城上(きのへ)の宮に (おほ)殿(との)を 仕へまつりて 殿(との)(ごも)り (こも)りいませば (あした)には 召して使ひ (ゆふへ)には 召して使ひ 使はしし 舎人(とねり)の子らは 行く鳥の (むら)がりて待ち あり待てど 召したまはねば 剣大刀(つるぎたち) ()きし心を (あま)(くも)に 思ひはぶらし ()いまろび ひづち()けども ()()らぬかも

右の一首

3327 (もも)小竹(しの)の ()()(おほきみ) 西の(うま)()に 立てて()(こま) (ひむがし)の馬屋に 立てて飼ふ駒 草こそば 取りて飼へ 水こそば ()みて飼へ 何しかも 葦毛(あしげ)の馬の いなき立てつる

反歌
3328 衣手(ころもで) 葦毛(あしげ)の馬の いなく声 心あれかも (つね)()に鳴く

右の二首

3329 (しら)(くも)の たなびく国の (あを)(くも)の (むか)()す国の (あま)(くも)の (した)なる人は 我のみかも 君に恋ふらむ 我のみかも 君に恋ふれば 天地(あめつち)に (こと)()てて 恋ふれかも 胸の()みたる 思へかも 心の(いた)き ()が恋ぞ ()()にまさる いつはしも 恋ひぬ時とは あらねども この九月(ながつき)を 我が()()が (しの)ひにせよと 千代(ちよ)にも (しの)ひわたれと 万代(よろづよ)に 語り()がへと 始めてし この九月の 過ぎまくを いたもすべなみ あらたまの 月の変れば ()むすべの たどきを知らに 岩が根の こごしき道の (いは)(とこ)の ()()へる(かど)に (あした)には ()()て嘆き (ゆうへ)には ()()恋ひつつ ぬばたまの 黒髪敷きて 人の()る (うま)()()ずに 大船(おほぶね)の ゆくらゆくらに 思ひつつ 我が寝る()らは ()みもあへぬかも

右の一首

3330 こもりくの (はつ)()の川の (かみ)つ瀬に ()()(かづ)け (しも)つ瀬に 鵜を八つ潜け 上つ瀬の (あゆ)を食はしめ 下つ瀬の 鮎を食はしめ くはし(いも)に 鮎を()しみ くはし妹に 鮎を惜しみ 投ぐるさの (とほ)ざかり()て 思ふそら 安けなくに (なげ)くそら 安けなくに (きぬ)こそば それ()れぬれば ()ぎつつも またも合ふといへ 玉こそば ()の絶えぬれば くくりつつ またも合ふといへ またも逢はぬものは 妻にしあり( )   故地
3331 こもりくの (はつ)()の山 (あを)(はた)の ()(さか)の山は 走出(はしりで)の よろしき山の (いで)(たち)の くはしき山ぞ あたらしき 山の 荒れまく()しも   故地
3332 高山(たかやま)と 海こそは 山ながら かくもうつくし 海ながら しかまことならめ 人は花ものぞ うつせみ()(ひと)

右の三首

3333 大君(おほきみ)の (みこと)畏み 蜻蛉島(あきづしま) 大和を過ぎて 大伴の ()()浜辺(はまへ)ゆ 大船に 真楫(まかぢ)しじ()き 朝なぎに 水手(かこ)の声しつつ (ゆふ)なぎに (かぢ)(おと)しつつ 行きし君 いつ()まさむと (うら)置きて (いは)ひわたるに たはことか 人の言ひつつ 我が心 筑紫(つくし)の山の 黄葉(もみちば)の 散りて過ぎぬと 君が直香(ただか)

反歌
3334 たはことか 人の言ひつる 玉の()の 長くと君は 言ひてしものを

右の二首

3335 (たま)(ほこ)の (みち)()く人は あしひきの 山行き野行き にはたづみ 川行き渡り 鯨魚(いさな)取り (うみ)()()でて (かしこ)きや 神の渡りは 吹く風も のどには吹かず 立つ波も おほには立たず とゐ波の 立ち(ささ)ふる道を ()が心 いたはしとかも (ただ)渡りけむ 直渡りけむ
3336 鳥が()の ()(しま)の海に 高山を (へだ)てになして 沖つ()を (まくら)になし 蛾羽(ひむしは)の (きぬ)だに着ずに 鯨魚(いさな)取り 海の(はま)()に うらもなく ()したる人は (おも)(ちち)に 愛子(まなご)にかあらむ 若草の 妻かありけむ 思ほしき (こと)()てむやと (いへ)問へば 家をも()らず ()を問へば 名だにも告らず 泣く子なす (こと)だにとはず 思へども 悲しきものは 世間(よのなか)にぞある 世間にぞある

反歌
3337 (おも)(ちち)も 妻も子どもも 高々(たかたか)に ()むと待ちけむ 人の悲しさ
3338 あしひきの 山道(やまぢ)は行かむ 風吹けば 波の(ささ)ふる 海道(うみぢ)は行かじ

或本の歌
備後(きびのみちのしり)の国の(かみ)(しま)の浜にして、調使首(つきのおみのおびと)(しかばね)を見て作る歌一首 (あは)せて短歌

3339 (たま)(ほこ)の 道に()で立ち あしひきの 野行き山行き にはたづみ 川行き渡り 鯨魚(いさな)取り (うみ)()()でて 吹く風も おほには吹かず 立つ波も のどには立たぬ (かしこ)きや 神の渡りの しき波の 寄する浜辺(はまへ)に 高山の (へだ)てに置きて 浦ぶちを 枕にまきて うらもなく ()したる君は 母父(おもちち)が 愛子(まなご)にもあらむ 若草の 妻もあるらむ 家()へど 家道(いへぢ)も言はず 名を問へど 名だにも()らず ()(こと)を いたはしとかも とゐ波の (かしこ)き海を (ただ)渡りけむ

反歌
3340 (おも)(ちち)も 妻も子どもも 高々(たかたか)に ()むと待ちらむ 人の悲しさ
3341 (いへ)(ひと)の 待つらむものを つれもなき 荒磯(ありそ)をまきて ()せる君かも
3342 浦ぶちに ()したる君を 今日(けふ)今日(けふ)と ()むと待つらむ 妻に悲しも
3343 浦波の ()()する浜に つれもなく ()したる君が (いへ)()知らずも

右の九首

3344 この月は 君来まさむと (おほ)(ふね)の 思ひ(たの)みて いつしかと 我が待()れば 黄葉(もみちば)の 過ぎてい行くと (たま)(ほこ)の 使(つかひ)の言へば (ほたる)なす ほのかに聞きて (おほ)(つち)を ほのほと()みて 立ちて()て ゆくへも知らず (あさ)(ぎり)の 思ひ(まと)ひて (つゑ)足らず ()(さか)の嘆き 嘆けども (しるし)をなみと いづくにか 君がまさむと (あま)(くも)の 行きのまにまに ()鹿()()の 行きも死なむと 思へども 道の知らねば ひとり()て 君に恋ふるに ()のみし泣( )

反歌
3345 (あし)()行く (かり)(つばさ)を 見るごとに 君が()ばしし (なげ)()し思ほゆ   

右の二首
ただし、或いは「この短歌は防人(さきもり)()が作る所なり」といふ。しからばすなはち、長歌もまたこれと同じき作にあることを知るべし。


3346 ()しきは 雲()に見ゆる うるはしき 鳥羽(とば)の松原 (わらは)ども いざわ()で見む こと()けば 国に放けなむ こと放けば 家に放けなむ 天地(あまつち)の 神し(うら)めし 草枕(くさまくら) この旅の()に (つま)()くべしや

反歌
3347 草枕 この旅の()に 妻(さか)り (いへ)()思ふに ()くるすべなし

右の二首

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