巻十八 4094〜4138

陸奥(みちのく)の国(くがね)()だす (せう)(しよ)()く歌一首 (あは)せて短歌   故地
4094 (あし)(はら)の 瑞穂(みづほ)の国を 天下(あまくだ)り 知らしめしける すめろきの (かみ)(みこと)の ()()(かさ)ね (あま)()(つぎ)と 知らし()る 君の()()()() 敷きませる 四方(よも)の国には 山川(やまかは)を 広み厚みと (たてまつ)る 御調(みつき)宝は (かぞ)へえず (つく)しもかねつ しかれども 我が大君(おほきみ)の 諸人(もろひと)を (いざな)ひたまひ よきことを 始めたまひて (くがね)かも (たし)けくあらむと 思ほして (した)(なや)ますに (とり)が鳴く (あづま)の国の 陸奥(みちのく)の 小田(をだ)なる山に (くがね)ありと (まう)したまへれ ()(こころ)を (あき)らめたまひ 天地(あめつち)の (かみ)(あひ)うづなひ すめろきの ()(たま)助けて 遠き()に かかりしことを 我が()()に (あら)はしてあれば ()す国は (さか)えむものと (かむ)ながら 思ほしめして もののふの 八十(やそ)(とも)()を (まつ)ろへの 向けのまにまに 老人(おいひと)も 女童(をみなわらは)も しが願ふ (こころ)()らひに ()でたまひ (をさ)めたまへば ここをしも あやに(たふと)み (うれ)しけく いよよ思ひて 大伴(おほとも)の 遠つ(かむ)(おや)の その名をば (おほ)久米(くめ)(ぬし)と ()ひ持ちて (つか)へし(つかさ) 海行かば ()()(かばね) 山行かば 草()(かばね) (おほ)(きみ)の ()にこそ死なめ (かへり)みは せじと(こと)()て ますらをの 清きその名を いにしへよ 今のをつつに 流さへる (おや)の子どもぞ 大伴(おほとも)と 佐伯(さへき)(うぢ)は 人の祖の 立つる(こと)()て 人の子は 祖の名絶たず 大君(おほきみ)に まつろふものと ()()げる (こと)(つかさ)ぞ 梓弓(あづさゆみ) 手に取り持ちて (つるぎ)()() (こし)に取り()き (あさ)(まも)り (ゆふ)(まも)りに 大君の ()(かど)(まも)り 我れをおきて 人はあらじと いや立て 思ひしまさる 大君の ()(こと)(さき)の 聞けば(たふと)

反歌三首
4095 ますらをの 心思ほゆ 大君(おほきみ)の ()(こと)(さき)を 聞けば(たふと)
4096 大伴(おほとも)の (とほ)神祖(かむおや)の 奥城(おくつき)は しるく(しめ)立て 人の知るべく
4097 天皇(すめろき)の ()()栄えむと (あづま)なる 陸奥山(みちのくやま)に (くがね)花咲く

天平感宝(てんぴやうかんぽう)元年の五月の十二日に、越中(こしのみちのなか)の国の(かみ)(たち)にして大伴宿禰家持作る。

吉野の(とつ)(みや)幸行(いでま)す時のために、()けて作る歌一首
4098 高御座(たかみくら) (あま)()(つぎ)と (あめ)(した) 知らしめしける すめろきの 神の(みこと)の (かしこ)くも 始めたまひて 貴くも 定めたまへる み吉野の この大宮に あり(がよ)ひ ()したまふらし もののふの 八十(やそ)(とも)()も おのが()へる おのが名負ひて 大君の ()けのまにまに この川の 絶ゆることなく この山の いや()ぎ継ぎに かくしこそ (つか)へまつらめ いや(とほ)(なが)

反歌
4099 いにしへを 思ほすらしも ()ご大君 吉野の宮を あり(がよ)()
4100 もののふの 八十(やそ)(うぢ)(ひと)も 吉野(よしの)(がは) 絶ゆることなく 仕へつつ見む

京の家に贈るために、真珠(しらたま)を願ふ歌一首 (あは)せて短歌
4101 珠洲(すず)()()の 沖つ()(かみ)に い渡りて (かづ)き取るといふ 鰒玉(あはびたま) 五百箇(いほち)もがも はしきよし 妻の(みこと)の (ころも)()の 別れし時よ ぬばたまの ()(とこ)(かた)さり (あさ)()(がみ) ()きも(けづ)らず ()でて()し 月日()みつつ 嘆くらむ 心なぐさに ほととぎす 来鳴く五月(さつき)の あやめぐさ (はな)(たちばな)に ()(まじ)へ かづらにせよと (つつ)みて()らむ   

4102 白玉を 包みて遣らば あやめぐさ (はな)(たちばな)に あへも()くがね
4104. 我妹子(わぎもこ)が 心なぐさに 遣らむため 沖つ島なる 白玉もがも

4103. (おき)(しま) い()き渡りて (かづ)くちふ 鰒玉(あはびたま)もが (つつ)みて()らむ
4105 白玉の 五百(いほ)(つど)ひを 手にむすび おこせむ海人(あま)は むがしくもあるか

右は、五月の十四日に、大伴宿禰家持、興に依りて作る。

史生(ししやう)尾張少咋(をはりのをくひ)を教へ(さと)す歌一首 (あは)せて短歌

七出例(しちしゆつれい)に云はく、「ただし、一条を(をか)さば、すなはち()だすべし。七出なくして(たやす)()つる者は、()一年半」といふ。三不去(さんふきよ)に云はく、「七出を犯すとも、棄つべくあらず。(たが)ふ者は(ぢやう)一百。ただし?(かん)を犯したると悪疾(あくじつ)とは棄つること()」といふ。両妻例(りやうさいれい)に云はく、「妻有りてさらに(めと)る者は徒一年、女家(ぢよか)は杖一百にして(はな)て」といふ。詔書に(のりたま)はく、「義夫節婦を(めぐ)み賜ふ」とのりたまふ。(つつし)みて(かんが)ふるに、先の(くだり)の数条は、(のり)を建つる(もと)にして、道を(をし)ふる源なり。しかればすなはち、義夫の道は、情存して(べち)なく、一家財を同じくす。あに(ふる)きを忘れ(あらた)しきを(うつく)しぶる志あらめや。このゆゑに数行(すぎやう)の歌を(つづ)()し、旧きを棄つる(まと)ひを()いしむ。その詞に曰はく、


4106 大汝(おほなむち) 少彦名(すくなびこな)の 神代(かむよ)より 言ひ()ぎけらく 父母(ちちはは)を 見れば(たふと)く 妻子(めこ)みれば (かな)しくめぐし うつせみの 世のことわりと かくさまに 言ひけるものを 世の人の 立つる(こと)()て ちさの(はな) 咲ける盛りに はしきよし その妻の子と (あさ)(よひ)に ()みみ笑まずも うち嘆き 語りけまくは とこしえに かくしもあらめや (あめ)(つち)の 神(こと)()せて (はる)(はな)の 盛りもあらむと 待たしけむ 時の盛りぞ 離れ居て 嘆かす(いも)が いつしかも 使(つかひ)()むと 待たすらむ 心(さぶ)しく 南風(みなみ)吹き (ゆき)()(はふ)りて (いみづかは)水川 流る水沫(みなわ)の 寄るへなみ ()()()その子に (ひも)()の いつがり合ひて にほ(どり)の ふたり並び() ()()の海の (おき)を深めて さどはせる 君が心の すべもすべなさ   

()()()」と言ふは遊行女婦(うかれめ)(あざな)なり

反歌三首
4107 あおによし 奈良にある(いも)が 高々(たかたか)に 待つらむ心 しかにはあらじか
4108 (さと)(ひと)の 見る目()づかし ()()()()に さどはす君が (みや)()(しり)姿(ぶり)
4109 (くれなゐ)は うつろふものぞ (つるはみ)の なれにし(きぬ)に なほしかめやも   

右は、五月の十五日に、(かみ)大伴宿禰家持作る。

先妻、夫君の()使(つかひ)を待たずして(みづか)(きた)る時に、作る歌一首
4110 ()()()()が (いつ)きし殿(との)に (すず)()けぬ 駅馬(はゆま)(くだ)れり 里もとどろに

同じき月の十七日に、大伴宿禰家持作る。

(たちばな)の歌一首 (あは)せて短歌   
4111 かけまくも あやに(かしこ)し 天皇(すめろき)の 神の(おほ)御代(みよ)に ()()()(もり) 常世(とこよ)に渡り ()(ほこ)持ち ()出来(でこ)し時 時じくの かくの(このみ)を (かしこ)くも (のこ)したまはれ 国も()に ()ひ立ち(さか)え 春されば (ひこ)()()いつつ ほととぎす 鳴く五月(さつき)には (はつ)(はな)を (えだ)()()りて (をとめ)子らに つとにも()りみ (しろ)(たへ)の (そで)にも()()れ かぐはしみ 置きて枯らしみ あゆる実は 玉に()きつつ 手に巻きて 見れども飽かず 秋づけば しぐれの雨降り あしひきの 山の()(ぬれ)は (くれなゐ)の にほひ散れども (たちばな)の なれるその実は ひた照りに いや見が欲しく み雪降る 冬に至れば 霜置けども その葉も枯れず 常盤(ときは)なす いやさかばえに しかれこそ 神の()()より よろしなへ この(たちばな)を 時じくの かくの(このみ)と 名付(なづ)けけらしも

反歌一首
4112 (たちばな)は 花にも実にも 見つれども いや(とき)じくに なほし見が()

(うるふ)の五月の二十三日に、大伴宿禰家持作る。

庭中の花を見て作る歌一首 (あは)せて短歌
4113 大君(おほきみ)の (とほ)朝廷(みかど)と ()きたまふ (つかさ)のまにま み雪降る (こし)(くだ)() あらたまの 年の(いつ)(とせ) (しき)(たへ)の ()(まくら)まかず (ひも)()かず (まろ)()をすれば いぶせみと 心なぐさに なでしこを やどに()()ほし 夏の野の 百合(ゆり)引き()ゑて 咲く花を 出で見るごとに なでしこが その(はな)(づま)に さ百合花 ゆりも()はむと (なぐさ)むる 心しなくは (あま)(ざか)る (ひな)一日(ひとひ)も あるべくもあれや

反歌二首
4114 なでしこが 花見るごとに 娘子(をとめ)らが 笑まひのにほひ 思ほゆるかも   
4115 百合(ゆり)(ばな) ゆりも()はむと (した)()ふる 心しなくは 今日(けふ)()めやも   

同じき(うるふ)の五月の二十六日に、大伴宿禰家持作る。

国の(じよう)久米朝臣広繩(久米のあそみひろつな)、天平二十年をもちて、朝集使(てうしふし)に付きて京に入る。その事(をは)りて、天平感宝元年の閏の五月の二十七日に、(ほん)(にん)(かへ)り至る。よりて、長官(かみ)(たち)にして、詩酒の(うたげ)()けて楽飲す。時に、主人(あるじ)(かみ)大伴宿禰家持が作る歌一首 (あは)せて短歌
4116 大君の ()きのまにまに 取り持ちて (つか)ふる国の 年の内の 事かたね持ち (たま)(ほこ)の 道に出で立ち 岩根(いはね)()み 山越え野()き (みやこへ)辺に ()ゐし()()を あらたまの 年()(がへ)り 月重ね 見ぬ日さまねみ 恋ふるそら 安くしあらねば ほととぎす 来鳴き五月(さつき)の あやめぐさ (よもぎ)かづらき (さか)みづき 遊びなぐれど (いみづ)(かは) (ゆき)()(はふ)りて 行く水の いや増しにのみ (たづ)が鳴く ()()()(すげ)の ねもころに 思ひ結ぼれ 嘆きつつ ()が待つ君が 事(をは)り 帰り(まか)りて 夏の野の さ百合(ゆり)の花の 花()みに にふぶに笑みて ()はしたる 今日(けふ)を始めて 鏡なす かくし(つね)見む (おもがは)変りせず

反歌二首
4117 去年(こぞ)の秋 (あひ)()しまにま 今日(けふ)見れば (おも)やめづらし 都方人(みやこかたひと)
4118 かくしても (あひ)()るものを すくなくも 年月()れば (こひ)しけれやも

霍公鳥(ほととぎす)()くを聞きて作る歌一首
4119 いにしへよ しのひにければ ほととぎす 鳴く声聞きて (こひ)しきものを

京に向ふ時に貴人を見また美人に()ひて飲宴(うたげ)する日のために、(おもひ)を述べ、()けて作る歌二首
4120 見まく()り 思ひしなへに かづらかげ かぐはし君を (あひ)()つるかも   
4121 朝参(てうさん)の 君が姿を 見ず(ひさ)に (ひな)にし住めば ()れ恋ひにけり

同じき(うるふ)の五月の二十八日に、大伴宿禰家持作る。

天平感宝元年の(うるふ)の五月の六日より以来(このかた)(せう)(かん)を起し、百姓の(でん)()やくやくに(しぼ)む色あり。六つきの朔日(つきたち)に至りて、たちまちに雨雲の気を見る。よりて作る雲の歌一首 短歌一絶
4122 天皇(すめろき)の 敷きます国の (あめ)(した) 四方(よも)の道には 馬の(つめ) い(つく)(きは)み (ふなのへ)舳の い()つるまでに いにしへよ 今のをつつに (よろづつき)調 (まつ)るつかさと 作りたる その生業(なりわひ)を 雨降らず 日の(かさ)なれば 植ゑし田も ()きし(はたけ)も 朝ごとに (しぼ)み枯れゆく そを見れば 心を痛み みどり子の ()()ふがごとく (あま)つ水 (あふ)ぎてぞ待つ あしひきの 山のたをりに この見ゆる (あま)の白雲 (わた)(つみ)の 沖つ(みや)()に 立ちわたり との(ぐも)りあひて 雨も(たま)はね

反歌一首
4123 この見ゆる 雲ほびこりて との曇り 雨も降らぬか 心()らひに

右の二首は、六月の一日の晩頭(ひのぐれ)に、守大伴宿禰家持作る。

()るを()く歌一首
4124 我が()りし 雨は降り()ぬ かくしあらば (こと)()げせずとも 年は(さか)えむ

右の一首は、同じき月の四日に、大伴宿禰家持作る。

七夕(しちせき)の歌一首 (あは)せて短歌
4125 (あま)()らす 神の御代(みよ)より (やす)(かは) (なか)(へだ)てて(むか)ひ立ち (そで)振り(かは)し (いき)()に 嘆かす子ら (わた)(もり) 舟も(まう)けず 橋だにも 渡してあらば その()ゆも い()き渡らし たづさはり うながけり()て 思ほしき (こと)も語らひ (なぐさ)むる 心はあらむを 何しかも 秋にしあらねば (こと)どひの (とも)しき子ら うつせみの 世の人我れも ここをしも あやにくすしみ 行きかはる 年のはごとに (あま)(はら) 振り()け見つつ 言ひ()ぎにすれ

反歌二首
4126 (あま)(がは) 橋渡せらば その()ゆも い渡らさむを 秋にあらずとも
4127 (やす)(かは) い向ひ立ちて 年の恋 ()長き子らが 妻どひの()

右は、七月の七日に、天漢(あまのがは)(あふ)ぎ見て、大伴宿禰家持作る。

越前(こしのみちのくち)の国の(じよう)大伴宿禰池主(いけぬし)来贈(おこ)する()()四首

たちまちに恩賜(おんし)(かたじけな)みし、驚欣(きやうきん)すでに深し。心中(ゑみ)(ふふ)み、独り()りてやくやくに開けば、表裏同じきことあらず。相違何しかも異なる。その(ゆゑ)推量(おしはか)るに、いささめに策をなせるか。明らかに知りて(こと)を加ふること、あに(あた)(こころ)あらめや。すべて本物(ほんもつ)貿易(ぼうえき)することは、その罪(かろ)きことあらず。正贓(せいさう)倍贓(はいさう)(すむや)けく(あは)せて()つべし。今し風雲を(ろく)して、徴使を発遣す。早速(さうそく)に返報せよ、延廻(えんくわい)すべくあらず。
勝宝元年の十一月の十二日 物の貿易せらえたる()()
謹みて 貿易人を断官司(だんくわんし)の府下に(うれ)ふ。 別に(まを)さく、()(れん)(こころ)()()あること(あた)はず。いささかに四詠を述べ、睡覚(すいかく)准擬(しゆんぎ)せむと。


4128 草枕(くさまくら) たびの(おきな)と 思ほして (はり)ぞ賜へる 縫はむ物もが
4129 (はり)(ぶくろ) 取り上げ前に置き 返さへば おのともおのや 裏も()ぎたり
4130 (はり)(ぶくろ) ()(つつ)けながら 里ごとに 照らさひ(ある)けど 人もとがめず
4131 (とり)が鳴く (あづま)をさして ふさへしに ()かむと(おも)へど よしもさねなし

右の歌の返し(こた)ふる歌は、脱漏(だつろう)して(たづ)ね求むること得ず。

さらに()()する歌二首

駅使(はゆまづかひ)を迎ふる事によりて、今月の十五日に、部下の加賀(かが)(こほり)の境に()()る。(おも)(かげ)射水(いみづ)(さと)を見、(れん)(しよ)深見(ふかみ)の村に(むす)ぼほる。身は()()(こと)なれども、心は(ほく)(ふう)に悲しぶ。月に乗じて(たもとほ)れども、かつて()すところなし。やくやくに来封(らいふう)を開くに、その辞云々(しかしか)とあれば、先に奉る書、返りて(おそ)るらくは疑ひに(わた)れるかと。()()(しよく)することをなし、かつがつ使()(くん)を悩ます。それ水を乞ひて酒を得るはもとより()き口なり。時を論じて(ことわり)に合はば、何せむに強吏(がうり)(しる)さむや。()ぎて針袋の詠を()むに、()(ぜん)()めども()きず。(ひざ)(むだ)き独り()み、よく旅の(うれへ)(のぞ)く。陶然に日を(おく)り、何をか(はか)らむ、何をか思はむ。短筆不宣(たんぴつふせん) 
勝宝元年の十二月の十五日 物を(はた)りし()()
謹上 不伏使君(ふふくのしくん) 記室 別に奉る云々 歌二首


4132 (たた)さにも かにも横さも (やつこ)とぞ ()れはありける (ぬし)殿(との)()
4133 (はり)(ぶくろ) これは(たば)りぬ すり(ぶくろ) 今は得てしか (おきな)さびせむ

宴席にして雪月梅花(せつげつばいくわ)を詠む歌一首   
4134 雪の(うへ)に 照れる月夜(つくよ)に (うめ)の花 折りて送らむ はしき子もがも

右の一首は、十二月に大伴宿禰家持作る。

4135 ()()()が 琴取るなへに (つね)(ひと)の 言ふ嘆きしも いやしき増すも

右の一首は、少目(せうさくわん)秦伊美吉石竹(はたのいみきいはたけ)(たち)にして(かみ)大伴宿禰家持作る。

天平勝宝二年の正月の二日に、国庁にして(あへ)(もろもろ)郡司(ぐんじ)()に給ふ宴の歌一首
4136 あしひきの 山の木末(こぬれ)の ほよ取りて かざしつらくは 千年(ちとせ)寿()くとぞ   

右の一首は、守大伴宿禰家持作る。

判官(じよう)久米朝臣広繩(くめのあそみひろつな)(たち)にして(うたげ)する歌一首
4137 正月(むつき)立つ 春の初めに かくしつつ (あひ)()みてば 時じけめやも

同じき月の五日に、(かみ)大伴宿禰家持作る

墾田地(こんでんぢ)を検察する事によりて、礪波(となみ)(こほり)主帳(しゆちやう)多治比部北里(たぢひべのきたさと)が家に宿る。時にたちまちに風雨起り、辞去することを得ずして作る歌一首
4138 (やぶ)(なみ)の 里に宿(やど)借り 春雨(はるさめ)に (こも)りつつむと (いも)()げつや   故地

二月の十八日に、(かみ)大伴宿禰家持作

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