味真野 福井県越前市味真野 「味真野」は、越前市の東方に広がる一帯をいう。 天平年中、この地に官人中臣宅守は配流された。 『万葉集』に中臣宅守と狭野弟上娘子の六十三首の贈答歌がある。目録は次のように記す。 ・・・ 中臣朝臣宅守、蔵部の女嬬狭野弟上娘子を娶りし時に、勅して流罪に断じ越前の国に配す。 ここに夫婦、別れやすく会ひかたきことを相嘆きて、おのもおのも慟む情を陳べて贈答する歌 六十四首 ・・・ 熱烈な恋愛贈答歌全ては紹介できないので、ここ味真野にある万葉歌碑とその歌群を紹介する。 ・・・・・ 中臣朝臣宅守、狭野弟上娘子と贈答する歌 ・ 越前の里・味真野苑 味真野に 宿れる君が 帰り来む 時の迎えを いつとか待たむ 弟上娘子 巻15−3770 君が行く 道の長手を 繰り畳ね 焼き滅ぼさむ 天の火もがも 弟上娘子 巻15−3724 塵泥の 数にもあらぬ 我れゆゑに 思ひわぶらむ 妹がかなしさ 宅守 巻15−3727 あしひきの 山道越えむと する君を 心に持ちて 安けくもなし 弟上娘子 巻15−3723 我がやどの 松の葉見つつ 我れ待たむ 早帰りませ 恋ひ死なぬとに 弟上娘子 巻15−3747 白栲の 我が下衣 失はず 持てれ我が背子 直に逢ふまでに 弟上娘子 巻15−3751 逢はむ日の 形見にせよと たわや女の 思ひ乱れて 縫へる衣ぞ 弟上娘子 巻15−3753 魂は 朝夕に たまふれど 我が胸痛し 恋の繁きに 弟上娘子 巻15−3767 帰りける 人来れりと 言ひしかば ほとほと死にき 君かと思ひて 弟上娘子 巻15−3772 あをによし 奈良の大道は 行きよけど この山道は 行き悪しかりけり 宅守 巻15−3728 畏みと 告らずありしを み越道の 手向けに立ちて 妹が名告りつ 宅守 巻15−3730 我妹子が 形見の衣 なかりせば 何物もてか 命継がまし 宅守 巻15−3733 遠き山 関も越え来ぬ 今さらに 逢ふべきよしの なきが寂しさ 宅守 巻15−3734 山川を 中にへなりて 遠くとも 心を近く 思ほせ我妹 宅守 巻15−3764 今日もかも 都なりせば 見まく欲り 西の御馬屋の 外に立てらまし 宅守 巻15−3776 ・・・ 越前市清水頭・交差点 我が背子が 帰り来まさむ 時のため 命残さむ 忘れたまふな 弟上娘子 巻15−3774 逢はむ日を その日と知らず 常闇に いづれの日まで 我れ恋ひ居らむ 宅守 巻15−3742 ・・・ 越前市味真野町・浅水川万葉大橋欄干 味真野に 宿れる君が 帰り来む 時の迎えを いつとか待たむ 弟上娘子 巻15−3770 今日もかも 都なりせば 見まく欲り 西の御馬屋の 外に立てらまし 宅守 巻15−3776 ・・・ 越前市五分市町・城福寺門前 春の日に うら悲しきに 後れ居て 君に恋ひつつ うつしけめやも 弟上娘子 巻15−3752 向ひ居て 一日もおちず 見しかども 厭はぬ妹を 月わたるまで 宅守 巻15−3756 ・・・ 越前市五分市町・小丸城跡 我妹子に 恋ふるに我れは たまきはる 短き命も 惜しけくもなし 宅守 巻15−3744 天地の 神なきものに あらばこそ 我が思ふ妹に 逢はず死にせめ 宅守 巻15−3740 命あらば 逢ふこともあらむ 我がゆゑに はだな思ひそ 命だに経ば 弟上娘子 巻15−3745 天地の 底ひのうらに 我がごとく 君に恋ふらむ 人はさねあらじ 弟上娘子 巻15−3750 |
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