千曲川

長野県千曲市上山田

信濃なる 千曲の川の 細石も 君し踏みてば 玉と拾はむ  巻14−3400

右は信濃の国の歌

千曲川のさざれ石   犬養 孝

わたしは千曲川をたずねて何度か歩いてみた。

小諸の上流、海ノ口温泉付近は、千曲川が渓谷を出て来て、ちょっと広い河原に出たところである。

温泉を黎明前に出て、川原で日の出を待った。日の出と共に写した。

キラキラ光る逆光線の流れの傍には月見草の朝つゆが光っていた。黎明晴朗、この時の気分を忘れない。

東歌の千曲川の歌はこの付近の庶民の間で謡われた歌でもあろう。

恋人の踏んだ小石には、恋しい人の魂がついている。

この歌は恋する千曲乙女の純情の心で、彼氏の踏んだ小石を拾いあげ抱きかかえて、「玉だわ」といっているのだ。

一つの小石も彼女にとっては、なによりの珠玉でさえあるのだ。

石を玉にする人間の心の厚みも深さも思われるではないか。

それは朝の曙光に輝く月見草の朝露にも増した綺麗な人間の心だ。………」

・・・・・

犬養先生の小文をお借りしました。

この文章が好きで、この千曲川に憬れてやってきました。

でも、犬養先生は千曲川のかなり上流、南牧村海ノ口温泉辺りで小石を拾っておられそうですが、

私は万葉歌碑のこともあり、上山田辺りの千曲川に立ちました。

河原に下り、小石をひとつそっとポケットに忍ばせました。

・・・・・

萬葉の宿・佐久屋  千曲市上山田

佐久屋さんには2つの歌碑があります。

1つは玄関脇にある犬養先生の歌碑です。

もう1つは、その碑と同じ書を刻したものですが、試刻したものとご主人にききました。

ただし、それは女性のお風呂の壁にはめ込んであるというもの。

道後温泉の歌碑を思い出しました。あの時は、男性のお風呂の湯釜に刻したものでしたが、

カメラを持っての入浴はもちろん許可が出ず、深夜までお客様がいなくなるまで待った思い出があります。

ところが、この佐久屋さんのお風呂は24時間いつでも入れるのです。

いつ何時女性のお客さまが入浴されるかわかりません。

御主人曰く、朝の5時から6時に間に一度消灯しますから、その時なら写真をどうぞ。

朝5時半、まだ皆さん寝静まっている頃、こっそり起き出しましてカメラを持って女風呂に入ったのでした。

・・・・・

千曲川萬葉公園  千曲市上山田下河原

万葉歌碑が8基あります。

信濃なる 千曲の川の 細石も 君し踏みてば 玉と拾はむ  巻14−3400

信濃奈流 知具麻能河泊能 左射礼思母 伎弥之布美弖婆 多麻等比呂波牟

中麻奈に 浮き居る舟の 漕ぎ出なば 逢ふことかたし 今日にしあらずは  巻14ー3401

中麻奈尓 宇伎乎流布祢能 許藝弖奈婆 安布許等可多思 家布尓思安良受波

瓜食めば 子ども思ほゆ 栗食めば まして偲はゆ いづくより 来りしものぞ まなかひに もとなかかりて 安寐し寝さぬ  巻5−802

銀も 金も玉も 何せむに まされる宝 子にしかめやも  巻5−803

信濃道は 今の墾り道 刈りばねに 足踏ましむな 沓はけ我が背  巻14−3399

信濃道者 伊麻能波里美知 可里婆祢尓 安思布麻之牟奈 久都波氣和我世

唐衣 裾に取り付き 泣く子らを 置きてぞ来のや 母なしにして  巻20−4401

右の一首は国造小県の郡の他田舎人大島

可良己呂武 須宗尓等里都伎 奈苦古良乎 意伎弖曽伎努也 意母奈之尓志弖

久米禅師、石川郎女を娉ふ時の歌

み薦刈る 信濃の真弓 我が引かば 貴人さびて いなと言はむかも  巻2−96

み薦刈る 信濃の真弓 引かずして 弦はくるわざを 知ると言はなくに  巻2−97

志貴皇子の懽の御歌一首

石走る 垂水の上の さわらびの 萌え出づる春に なりにけるかも  巻8−1418

石激 垂見之上乃 左和良妣乃 毛要出春尓 成来鴨

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