布勢の海

富山県氷見市十二町

布勢の水海に遊覧する賦一首并せて短歌

もののふの 八十伴の男の 思ふどち 心遣らむと 馬並めて うちくちぶりの 白波の 荒磯に寄する 渋谿の 崎た廻り

麻都太江の 長浜過ぎて 宇奈比川 清き瀬ごとに 鵜川立ち か行きかく行き 見つれども そこも飽かにと 布勢の海に

 舟浮け据ゑて 沖辺漕ぎ 辺に漕ぎ見れば 渚には あぢ群騒き 島みには 木末花咲き ここばくも 見のさやけきか 玉櫛笥

 二上山に 延ふ蔦の 行きは別れず あり通ひ いや年のはに 思ふどち かくし遊ばむ 今も見るごと  巻17−3991

布勢の海の 沖つ白波 あり通ひ いや年のはに 見つつしのはむ  巻17−3992

十二町潟水郷公園

「布勢湖全景」古図  観光ガイドから借用

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古図が示すように万葉の当時は、氷見市の南西部は「布勢の海」と呼ばれる大きな湖であった。

現在その多くは干拓などで水田となっているが、一部が「十二町潟」として名残を留める。

国府からは二上山を廻り越えればこの布勢の海、家持らは遊覧に幾度もここを訪れた。

氷見市十二町 十二町潟水郷公園
副碑に巻17−3991・3992

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多胡の崎

多胡の崎は布勢の海にあった崎であるが、現在田子の地名が残る。一帯は田園風景。

氷見市上田子 国泰寺入口四辻角
巻18−4051

十二日に、布勢の水海に遊覧し、多胡の湾に舟泊りす。藤の花を望みて、おのもおのも懐を述べて作る歌四首

藤波の 影なす海の 底清み 沈く石をも 玉とぞ我が見る  守大伴宿禰家持 巻19−4199

多?の浦の 底さへにほふ 藤波を かざして行かむ 見ぬ人のため  次官内蔵忌寸繩麻呂 巻19−4200

いささかに 思ひて来しを 多?の浦に 咲ける藤見て 一夜経ぬべし  判官久米朝臣広繩 巻19−4201

藤波を 仮廬に作り 浦廻する 人とは知らに 海人とか見らむ  久米朝臣継麻呂 巻19−4202

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後世名付けられたのだろうが、万葉歌そのままの社名、「田子浦藤波神社」

氷見市下田子
田子浦藤波神社
境内の歌碑
裏面に巻19−4199

布勢の円山・・・氷見市指定文化財(名勝)

 布勢神社のある小山が、布勢の円山と呼ばれ、上の古図では丸い島として描かれている。

ありし日の布勢の海を思いめぐらす景勝の地ということである。

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明日の日の 布勢の浦みの 藤波に けだし来鳴かず 散らしてむかも  巻18−4043

布勢神社布勢神社社殿境内の歌碑 巻18−4043

布勢の円山から
周囲に広がる水田は「布勢の海」

「大伴家持卿遊覧之地碑」
「大伴家持卿之碑」

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矢崎の大フジ

氷見市十二町矢崎の稲荷神社には大きな藤の木がある。

ほととぎす 布勢の浦みの 藤波に けだし来鳴かず 散らしてむかも  一云頭 保等登藝須 巻18−4043

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巻17−3991の題詞の註に「この海は射水の郡の古江の村に有り」とある。

湖水神社のあるこの辺りが古名「古江」という。

氷見市湖光 湖光神社
巻19−4187の前半

その他、「布勢の海」を歌う万葉歌碑


氷見市本町
中の橋南側
巻19-4199

氷見市窪
十二町潟排水機場
 巻17-3991

氷見市十二町高塚
日宮神社
 巻17-3991

氷見市上泉
 ヴィラージュ泉の杜の公園
巻18-4051

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