はぎ

我妹子に 恋ひつつあらずは 秋萩の 咲きて散りぬる 花にあらましを  巻2−120

ヤマハギ

山野に生え、高さは約2b。

枝はほとんどしだれない。

葉は3出複葉。小葉は広楕円形または広倒卵形で先は円形。

6〜9月、葉のわきから長い総状花序をだし、紅紫色で1.3〜1.5aの蝶形花を開く。

ミヤギノハギ

山野に自生するが、ハギの仲間で最もよく植えられている。

花期には地につくほど枝がしだれる。

葉は3出複葉で互生する。小葉は長さ2〜6aの楕円形または長楕円形。

7〜9月、葉のわきから長い総状花序をだし、紅紫色で1.3〜1.5aの蝶形花を開く。

・・・・・・・

万葉集ではたくさんの植物・花が登場するが、この萩が詠われた歌は142首を数え、一番多い。

万葉人がいかにこの萩の花を愛し、秋の来たことを知り、髪にかざし、散る花を惜しんだということであろう。

『万葉集』に詠まれた「はぎ」は百四十二首
我妹子に 恋ひつつあらずは 秋萩の 咲きて散りぬる 花にあらましを  巻2−120

高円の 野辺の秋萩 いたづらに 咲きか散るらむ 見る人なしに  巻2−231

高円の 野辺の秋萩 な散りそね 君が形見に 見つつ偲はむ  巻2−233

かくのみに あるけるものを 萩の花 咲きてありやと 問ひし君はも  巻3−455

さすすみの 栗栖の小野の 萩の花 散らむ時にし 行きて手向けむ  巻6−970

・・・ 秋さり来れば 生駒山 飛火が岳に 萩の枝を しがらみ散らし ・・・  巻6−1047

春日野に 咲きたる萩は 片枝は いまだふふめり 言な絶えそね  巻7−1363

見まく欲り 恋ひつつ待ちし 秋萩は 花のみ咲きて ならずかもあらむ  巻7−1364

我妹子が やどの秋萩 花よりは 実になりてこそ 恋ひまさりけれ  巻7−1365

百済野の 萩の古枝に 春待つと 居りしうぐひす 鳴きにけむかも  巻8−1431

ほととぎす 声聞く小野の 秋風に 萩咲きぬれや 声の乏しき  巻8−1468

秋萩は 咲くべくあらし 我がやどの 浅茅が花の 散りゆくみれば  巻8−1514

をみなへし 秋萩交る 蘆城の野 今日を始めて 万代に見む  巻8−1530

草枕 旅行く人も 行き触れば にほひぬべくも 咲ける萩かも  巻8−1532

伊香山 野辺に咲きたる 萩見れば 君が家なる 尾花し思ほゆ  巻8−1533

をみなへし 秋萩折れれ 玉桙の 道行きづとと 乞はむ子がため  巻8−1534

宵に逢ひて 朝面なみ 名張野の 萩は散りにき 黄葉早継げ  巻8−1536

萩の花 尾花葛花 なでしこの花 をみなへし また藤袴 朝顔の花  巻8−1538

我が岡に さを鹿来鳴く 初萩の 花妻どひに 来鳴くさを鹿  巻8−1541

我が岡の 秋萩の花 風をいたみ 散るべくなりぬ 見む人もがも  巻8−1542

さを鹿の 萩に貫き置ける 露の白玉 あふさわに 誰れの人かも 手に巻かむちふ  巻8−1547

大伴坂上郎女が晩萩の歌一首  巻8−1548

秋萩の 散りの乱ひに 呼びたてて 鳴くなる鹿の 声の遥けさ  巻8−1550

明日香川 行き廻る岡の 秋萩は 今日降る雨に 散りか過ぎなむ  巻8−1557

鶉鳴く 古りにし里の 秋萩を 思ふ人どち 相見つるかも  巻8−1558

秋萩は 盛り過ぐるを いたづらに かざしに挿さず 帰りなむとや  巻8−1559

妹が目を 始見の崎の 秋萩は この月ごろは 散りこすなゆめ  巻8−1560

我がやどの 一群萩を 思ふ子に 見せずほとほと 散らしつるかも  巻8−1565

雲の上に 鳴きつる雁の 寒きなへ 萩の下葉は もみちぬるかも  巻8−1575

朝戸開けて 物思ふ時に 白露の 置ける秋萩 見えつつもとな  巻8−1579

さを鹿の 来立ち鳴く野の 秋萩は 露霜負ひて 散りにしものを  巻8−1580

秋萩の 枝もとををに 置く露の 消なば消ぬとも 色に出でめやも  巻8−1595

秋の野に 咲ける秋萩 秋風に 靡ける上に 秋の露置けり  巻8−1597

さを鹿の 朝立つ野辺の 秋萩に 玉と見るまで 置ける白露  巻8−1598

さを鹿の 胸別けにかも 秋萩の 散り過ぎにける 盛りかも去ぬる  巻8−1599

妻恋ひに 鹿鳴く山辺の 秋萩は 露霜寒み 盛り過ぎゆく  巻8−1600

高円の 野辺の秋萩 このころの 暁露に 咲きにけむかも  巻8−1606

秋萩の 上に置きたる 白露の 消かもしなまし 恋ひつつあらずは  巻8−1608

宇陀の野の 秋萩しのぎ 鳴く鹿も 妻に恋ふらく 我れには増さじ  巻8−1609

秋萩に 置きたる露の 風吹きて 落つる涙は 留めかねつも  巻8−1617

玉に貫き 消たず賜らむ 秋萩の 末わくらばに 置ける白露  巻8−1618

我がやどの 萩花咲けり 見に来ませ いま二日だみ あらば散りなむ  巻8−1621

我がやどの 秋の萩咲く 夕影に 今も見てしか 妹が姿を  巻8−1622

我がやどの 萩の下葉は 秋風も いまだ吹かねば かくぞもみてる  巻8−1628

手もすまに 植ゑし萩にや かへりては 見れども飽かず 心尽さむ  巻8−1633

・・・ 御垣の山に 秋萩の 妻をまかむと 朝月夜 明けまく惜しみ ・・・  巻9−1761

後れ居て 我れはや恋ひむ 印南野の 秋萩見つつ 去なむ子故に  巻9−1772

秋萩を 妻どふ鹿こそ 独り子に 子持てりといへ 鹿子じもの ・・・  巻9−1790

我が待ちし 秋萩咲きぬ 今だにも にほひに行かな 彼方人に  巻10−2014

さを鹿の 心相思ふ 秋萩の しぐれの降るに 散らくし惜しも  巻10−2094

夕されば 野辺の秋萩 うら若み 露にぞ枯るる 秋待ちかてに  巻10−2095

真葛原 靡く秋風 吹くごとに 阿太の大野の 萩の花散る  巻10−2096

雁がねの 来鳴かむ日まで 見つつあらむ この萩原に 雨な降りそね  巻10−2097

奥山に 住むとふ鹿の 宵さらず 妻どふ萩の 散らまく惜しも  巻10−2098

白露の 置かまく惜しみ 秋萩を 折りのみ折りて 置きや枯らさむ  巻10−2099

秋田刈る 仮盧の宿り にほふまで 咲ける秋萩 見れど飽かぬかも  巻10−2100

我が衣 摺れるにはあらず 高松の 野辺行きしかば 萩の摺れるぞ  巻10−2101

この夕 秋風吹きぬ 白露に 争ふ萩の 明日咲かむ見む  巻10−2102

秋風は 涼しくなりぬ 馬並めて いざ野に行かな 萩の花見に  巻10−2103

春されば 霞隠りて 見えざりし 秋萩咲きぬ 折りてかざさむ  巻10−2105

沙額田の 野辺の秋萩 時なれば 今盛りなり 折りてかざさむ  巻10−2106

ことさらに 衣は摺らじ をみなへし 佐紀野の萩に にほひて居らむ  巻10−2107

秋風は 疾く疾く吹き来 萩の花 散らまく惜しみ 競ひ立たむ見む  巻10−2108

我がやどの 萩の末長し 秋風の 吹きなむ時に 咲かむと思ひて  巻10−2109

人皆は 萩を秋と言ふ よし我れは 尾花が末を 秋とは言はむ  巻10−2110

玉梓の 君が使の 手折り来る この秋萩は 見れど飽かぬかも  巻10−2111

我がやどに 咲ける秋萩 常ならば 我が待つ人に 見せましものを  巻10−2112

手もすまに 植ゑしもしるく 出で見れば やどの初萩 咲きにけるかも  巻10−2113

我がやどに 植ゑ生ほしたる 秋萩を 誰れか標刺す 我れに知らえず  巻10−2114

白露に 争ひかねて 咲ける萩 散らば惜しけむ 雨な降りそね  巻10−2216

娘子らに 行き逢ひの早稲を 刈る時に なりにけらしも 萩の花咲く  巻10−2117

朝霧の たなびく小野の 萩の花 今か散るらむ いまだ飽かなくに  巻10−2118

恋しくは 形見にせよと 我が背子が 植ゑし秋萩 花咲きにけり  巻10−2119

秋萩に 恋尽さじと 思へども しゑやあたらし またも逢はめやも  巻10−2120

秋風は 日に異に吹きぬ 高円の 野辺の秋萩 散らまく惜しも  巻10−2121

ますらをの 心はなくて 秋萩の 恋のみにやも なづみてありなむ  巻10−2122

我が待ちし 秋は来りぬ しかれども 萩の花ぞも いまだ咲かずける  巻10−2123

見まく欲り 我が待ち恋ひし 秋萩は 枝もしみみに 花咲きにけり  巻10−2124

春日野の 萩し散りなば 朝東風の 風にたぐひて ここに散り来ね  巻10−2125

秋萩は 雁に逢はじと 言へればか 声を聞きては 花に散りぬる  巻10−2126

秋さらば 妹に見せむと 植ゑし萩 露霜負ひて 散りにけるかも  巻10−2127

さを鹿の 妻ととのふと 鳴く声の 至らむ極み 靡け萩原  巻10−2142

君に恋ひ うらぶれ居れば 敷の野の 秋萩しのぎ さを鹿鳴くも  巻10−2143

雁は来ぬ 萩は散りぬと さを鹿の 鳴くなる声も うらぶれにけり  巻10−2144

秋萩の 恋も尽きねば さを鹿の 声い継ぎい継ぎ 恋こそまされ  巻10−2145

秋萩の 散りゆく見れば おほほしみ 妻恋すらし さを鹿鳴くも  巻10−2150

秋萩の 散り過ぎゆかば さを鹿は わび鳴きせむな 見ずはともしみ  巻10−2152

秋萩の 咲きたる野辺は さを鹿ぞ 露を別けつつ 妻どひしける  巻10−2153

なぞ鹿の わび鳴きすなる けだしくも 秋野の萩や 繁く散るらむ  巻10−2154

秋萩の 咲きたる野辺の さを鹿は 散らまく惜しみ 鳴き行くものを  巻10−2155

秋萩に 置ける白露 朝な朝な 玉としぞ見る 置ける白露  巻10−2168

秋萩の 枝もとををに 露霜置き 寒くも時は なりにけるかも  巻10−2170

白露と 秋萩とには 恋ひ乱れ 別くことかたき 我が心かも  巻10−2171

白露を 取らば消ぬべし いざ子ども 露に競ひて 萩の遊びせぬ  巻10−2173

このころの 秋風寒し 萩の花 散らす白露 置きにけらしも  巻10−2175

このころの 暁露に 我がやどの 萩の下葉は 色づきにけり  巻10−2182

秋風の 日に異に吹けば 露を重み 萩の下葉は 色づきにけり  巻10−2204

秋萩の 下葉もみちぬ あらたまの 月の経ぬれば 風をいたみかも  巻10−2205

秋萩の 下葉の黄葉 花に継ぎ 時過ぎゆかば 後恋ひむかも  巻10−2209

このころの 暁露に 我がやどの 秋の萩原 色づきにけり  巻10−2213

さ夜更けて しぐれな降りそ 秋萩の 本葉の黄葉 散らまく惜しも  巻10−2215

我が門の 守る田を見れば 佐保の内の 秋萩すすき 思ほゆるかも  巻10−2221

我が背子が かざしの萩に 置く露を さやかに見よと 月は照るらし  巻10−2225

萩の花 咲きのををりを 見よとかも 月夜の清き 恋まさらくに  巻10−2228

萩の花 咲きたる野辺に ひぐらしの 鳴くなるなへに 秋の風吹く  巻10−2231

秋萩の 咲き散る野辺の 夕露に 濡れつつ来ませ 夜は更けぬとも  巻10−2252

秋萩の 上に置きたる 白露の 消かもしなまし 恋ひつつあらずは  巻10−2254

我がやどの 秋萩の上に 置く露の いちしろくしも 我れ恋ひめやも  巻10−2255

秋萩の 枝もとををに 置く露の 消かもしなまし 恋ひつつあらずは  巻10−2258

秋萩の 上に白露 置くごとに 見つつぞ偲ふ 君が姿を  巻10−2259

秋萩を 散らす長雨の 降るころは ひとり起き居て 恋ふる夜ぞ多き  巻10−2262

草深み こほろぎさはに 鳴くやどの 萩見に君は いつか来まさむ  巻10−2271

何すとか 君をいとはむ 秋萩の その初花の 嬉しきものを  巻10−2273

雁がねの 初声聞きて 咲き出たる やどの秋萩 見に来我が背子  巻10−2276

萩の花 咲けるを見れば 君に逢はず まことも久に なりにけるかも  巻10−2280

いささめに 今も見が欲し 秋萩の しなひにあるらむ 妹が姿を  巻10−2284

秋萩の 花野のすすき 穂には出でず 我が恋ひわたる 隠り妻はも  巻10−2285

我がやどに 咲きし秋萩 散り過ぎて 実になるまでに 君に逢はぬかも  巻10−2286

我がやどの 萩咲きにけり 散らぬ間に 早来て見べし 奈良の里人  巻10−2287

藤原の 古りにし里の 秋萩は 咲きて散りにき 君待ちかねて  巻10−2289

秋萩を 散り過ぎぬべみ 手折り持ち 見れども寂し 君にしあらねば  巻10−2290

秋津野の 尾花刈り添へ 秋萩の 花を葺かさね 君が仮盧に  巻10−2292

咲けりとも 知らずしあらば 黙もあらむ この秋萩を 見せつつもとな  巻10−2293

・・・ 露負ひて 靡ける萩を 玉たすき 懸けて偲はし ・・・  巻13−3324

秋萩に にほへる我が裳 濡れぬとも 君が御舟の 綱し取りてば  巻15−3656

秋の野を にほはす萩は 咲けれども 見る験なし 旅にしあれば  巻15−3677

帰り来て 見むと思ひし 我がやどの 秋萩すすき 散りにけむかも  巻15−3681

・・・ 秋萩の 散らへる野辺の 初尾花 仮盧に葺きて ・・・  巻15−3691

・・・ はだすすき 穂に出づる秋の 萩の花 にほへるやどを 朝庭に ・・・  巻17−3957

・・・ 心なぐやと 秋づけば 萩咲きにほふ 石瀬野に 馬だき行きて ・・・  巻19−4154

我がやどの 萩咲きにけり 秋風の 吹かむを待たば いと遠みかも  巻19−4219

朝霧の たなびく田居に 鳴く雁を 留め得むかも 我がやどの萩  巻19−4224

石瀬野に 秋萩しのぎ 馬並めて 初鳥猟だに せずや別れむ  巻19−4249

君が家に 植ゑたる萩の 初花を 折りてかざさな 旅別るどち  巻19−4252

立ちて居て 待てど待ちかね 出でて来し 君にここに逢ひ かざしつる萩  巻19−4253

天雲に 雁ぞ鳴くなる 高円の 萩の下葉は もみちあへむかも  巻20−4296

をみなへし 秋萩しのぎ さを鹿の 露別け鳴かむ 高円の野ぞ  巻20−4297

宮人の 袖付け衣 秋萩に にほひよろしき 高円の宮  巻20−4315

秋の野に 露負へる萩を 手折らずて あたら盛りを 過ぐしてむとか  巻20−4318

ますらをの 呼び立てしかば さを鹿の 胸別け行かむ 秋野萩原  巻20−4320

我が背子が やどなる萩の 花咲かむ 秋の夕は 我れを偲はせ  巻20−4444

秋風の 末吹き靡く 萩の花 ともにかざさず 相か別れむ  巻20−4515

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