つるはみ

橡の 衣は人皆 事なしと 言ひし時より 着欲しく思ほゆ  巻7−1311

クヌギ

ブナ科コナラ属

春4月、山野を散策すると、コナラ・カシワ・クヌギ・カシ・・・といったブナ科の木々が花を咲かせる。

黄褐色の5〜10aの花序を垂らす。

そして秋には(翌年の秋らしいが)堅果をつける。

子どもの頃からどんぐりと総称してきた。

いまもその総称のレベルは変らず、どれがクヌギの実、カシワの実、アベマキの実といってもさっぱり区別できない。

椀形の殻斗(はかまと云っているが)に下半部が包まれていて、

この実で母が妹のためにたくさんのどんぐり人形を作ってくれたことを思い出す。

万葉人はこの実を染料として衣を染めたという。

万葉歌もつるはみの木や花・実を詠ったものではなく、つるはみで染めた衣と詠う。

質素な衣という表現で、庶民はもっぱらこれを着ていたらしい。

家持も「橡のなれにし衣」と詠うから、偉い人も普段着はこのつるはみ染めだったのだろう。

・・・

『万葉集』に詠まれた「つるはみ」は六首

橡の 衣は人皆 事なしと 言ひし時より 着欲しく思ほゆ  巻7−1311

橡の 解き洗ひ衣の あやしくも ことに着欲しき この夕かも  巻7−1314

橡の 袷の衣 裏にせば 我れ強ひめやも 君が来まさむ  巻12−2965

橡の 一重の衣 うらもなく あるらむ子ゆゑ 恋ひわたるかも  巻12−2968

橡の 衣解き洗ひ 真土山 本つ人には なほしかずけり  巻12−3009

紅は うつろふものぞ 橡の なれにし衣に なほしかめやも  巻18−4109

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