まつ

岩代の 浜松が枝を 引き結び ま幸くあらば また帰り見む  巻2−141

マツ

マツ科マツ属

よく知られた樹木で、「まつ」は神がその木に天降ることを「待つ」意とする説がある。

葉は針状、花は単性で雌雄同株。

球果はいわゆる「まつかさ」。

・・・・・・・

万葉歌で「マツ」は、あなたを待ちますの「待つ」に掛かる言葉として用いられたり、

松が枝を結ぶ」として無事を祈る・安全を祈る呪的習俗として用いられている。

有間皇子の結松(巻2−141)はあまりに有名である。

ハイマツ

7月の終わりに木曽駒ヶ岳に登った時、

2000bの高山帯に風を避けるように地を這うハイマツに出会った。

綺麗な紅色の雌花だ。

滋賀・湖南地方の鶏冠山の天狗岩近くに、

大きな岩の隙間から生える松の若木があった。

土質は全くないと思われるのに力強く伸びている。

これが磐を裂くように成長するのだろうか。

・・・・・

『万葉集』に詠まれた「まつ」は七十七首

我が背子は 仮廬作らす 草なくは 小松が下の 草を刈らさね  巻1−11

白波の 浜松が枝の 手向けくさ 幾代までにか 年の経ぬらむ  巻1−34

いざ子ども 早く日本へ 大伴の 御津の浜松 待ち恋ひぬらむ  巻1−63

霰打つ 安良礼松原 住吉の 弟日娘子と 見れど飽かぬかも  巻1−65

大伴の 高石の浜の 松が根を 枕き寝れど 家し偲はゆ  巻1−66

我妹子を 早見浜風 大和なる 我れ松椿 吹かざるなゆめ  巻1−73

み吉野の 玉松が枝は はしきかも 君が御言を 持ちて通はく  巻2−113

岩代の 浜松が枝を 引き結び ま幸くあらば また帰り見む  巻2−141

岩代の 崖の松が枝 結びけむ 人は帰りて また見けむかも  巻2−143

岩代の 野中に立てる 結び松 心も解けず いにしへ思ほゆ  巻2−144

天翔り あり通ひつつ 見らめども 人こそ知らね 松は知るらむ  巻2−145

後見むと 君が結べる 岩代の 小松がうれを またも見むかも  巻2−146

妹が名は 千代に流れむ 姫島の 小松がうれに 蘿生すまでに  巻2−228

天降りつく 天の香具山 霞立つ 春に至れば 松風に 池波立ちて ・・・  巻3−257

・・・ 春さり来れば 桜花 木の暗茂に 松風に 池波立ち 辺つ辺には ・・・  巻3−260

我妹子に 猪名野は見せつ 名次山 角の松原 いつか示さむ  巻3−279

住吉の 岸の松原 遠つ神 我が大君の 幸しところ  巻3−295

石室戸に 立てる松の木 汝を見れば 昔の人を 相見るごとし  巻3−309

標結ひて 我が定めてし 住吉の 浜の小松は 後も我が松  巻3−394

・・・ 松が根や 遠く久しき 言のみも 名のみも我れは 忘れゆましじ  巻3−431

昨日こそ 君はありしか 思はぬに 浜松の上に 雲にたなびく  巻3−444

白鳥の 飛羽山松の 待ちつつぞ 我が恋ひわたる この月ごろを  巻4−588

君に恋ひ いたもすべなみ 奈良山の 小松が下に 立ち嘆くかも  巻4−593

松の葉に 月はゆつりぬ 黄葉の 過ぐれや君が 逢はぬ夜ぞ多き  巻4−623

大伴の 御津の松原 かき掃きて 我れ立ち待たむ 早帰りませ  巻5−895

韓衣 着奈良の里の 夫松に 玉をし付けむ よき人もがも  巻6−952

茂岡に 神さび立ちて 栄えたる 千代松の木の 年の知らなく  巻6−990

妹に恋ひ 吾の松原 見わたせば 潮干の潟に 鶴鳴き渡る  巻6−1030

我がやどの 君松の木に 降る雪の 行きには行かじ 待ちにし待たむ  巻6−1041

一つ松 幾代か経ぬる 吹く風の 音の清きは 年深みかも  巻6−1042

たまきはる 命は知らず 松が枝を 結ぶ心は 長くとぞ思ふ  巻6−1043

住吉の 岸の松が根 うちさらし 寄せ来る波の 音のさやけさ  巻7−1159

朝なぎに 真楫漕ぎ出で 見つつ来し 御津の松原 波越しに見ゆ  巻87−1185

やどにある 桜の花は 今もかも 松風早み 地に散るらむ  巻8−1458

池の辺の 松の末葉に 降る雪は 五百重降りしけ 明日さへも見む  巻8−1650

松蔭の 浅茅の上の 白雪を 消たずて置かむ ことはかもなき  巻8−1654

我が背子が 使来むかと 出立の この松原を 今日か過ぎなむ  巻9−1674

白鳥の 鷺坂山の 松蔭に 宿りて行かな 夜も更けゆくを  巻9−1687

白波の 浜松の木の 手向けくさ 幾代までにか 年は経ぬらむ  巻9−1716

松反り しひてあれやは 三栗の 中上り来ぬ 麻呂といふ奴  巻9−1783

妹らがり 今木の嶺に 茂り立つ 夫松の木は 古人見けむ  巻9−1795

梅の花 咲きて散りなば 我妹子を 来むか来じかと 我が松の木ぞ  巻10−1922

・・・ 夕されば 小松が末に 里人の 聞き恋ふるまで 山彦の 相響むまで ・・・  巻10−1937

風吹けば 黄葉散りつつ すくなくも 吾の松原 清くあらなくに  巻10−2198

あしひきの 山かも高き 巻向の 崖の小松に み雪降りくる  巻10−2313

巻向の 檜原もいまだ 雲居ねば 小松が末ゆ 沫雪流る  巻10−2314

君来ずは 形見にせむと 我がふたり 植ゑし松の木 君を待ち出でむ  巻11−2484

袖振らば 見ゆべき限り 我れはあれど その松が枝に 隠らひにけり  巻11−2485

茅渟の海の 浜辺の小松 根深めて 我れ恋ひわたる 人の子ゆえに  巻11−2486

奈良山の 小松が末の うれむぞは 我が思ふ妹に 逢はずやみなむ  巻11−2487

馬の音の とどともすれば 松蔭に 出でてぞ見つる けだし君かも  巻11−2653

あぢの住む 渚沙の入江の 荒磯松 我を待つ子らは ただひとりのみ  巻11−2751

磯の上に 生ふる小松の 名を惜しみ 人に知らえず 恋ひわたるかも  巻12−2861

神さびて 巌に生ふる 松が根の 君が心は 忘れかねつも  巻12−3047

豊国の 企救の浜松 ねもころに 何しか妹に 相言ひそめけむ  巻12−3130

・・・ 松が根の 待つこと遠み 天伝ふ 日の暮れぬれば ・・・  巻13−3258

・・・ 遠つ人 松の下道ゆ ・・・御袖 行き触れし松を 言とはぬ ・・・  巻13−3324

・・・ うるはしき 鳥羽の松原 童ども いざわ出で見む こと放けば ・・・  巻13−3346

巌ろの 沿ひの若松 限りとや 君が来まさぬ うらもとなくも  巻14−3495

我が命を 長門の島の 小松原 幾代を経てか 神さびわたる  巻15−3621

今よりは 秋づきぬらし あしひきの 山松蔭に ひぐらし鳴きぬ  巻15−3655

ぬばたまの 夜明かしも船は 漕ぎ行かな 御津の浜松 待ち恋ひぬらむ  巻15−3721

我がやどの 松の葉見つつ 我れ待たむ 早帰りませ 恋ひ死なぬとに  巻15−3747

我が背子を 安我松原よ 見わたせば 海人娘子ども 玉藻刈るみゆ  巻17−3890

海人娘子 漁り焚く火の おぼほしく 角の松原 思ほゆるかも  巻17−3899

松の花 花数にしも 我が背子が 思へらなくに もとな咲きつつ  巻17−3942

松反り しひにてあれかも さ山田の 翁がその日に 求めあはずけむ  巻17−4014

・・・ 直向ひ 見む時までは 松柏の 栄えいまさね 貴き我が君  巻19−4169

・・・ 礪波山 飛び越え行きて 明け立たば 松のさ枝に ・・・  巻19−4177

・・・ 松が根の 絶ゆることなく あをによし 奈良の都に 万代に ・・・  巻19−4266

松陰の 清き浜辺に 玉敷かば 君来まさむか 清き浜辺に  巻19−4271

松の木の 並みたる見れば 家人の 我れを見送ると 立たりしもころ  巻20−4375

松が枝の 地に着くまで 降る雪を 見ずてや妹が 隠り居るらむ  巻20−4439

住吉の 浜松が根の 下延へて 我が見る小野の 草な刈りそね  巻20−4457

ほととぎす 懸けつつ君が 松陰に 紐解き放くる 月近づきぬ  巻20−4464

はしきよし 今日の主人は 磯松の 常にいまさね 今も見るごと  巻20−4498

八千種の 花はうつろふ 常磐なる 松のさ枝を 我れは結ばな  巻20−4501

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