ねつこぐさ

芝付の 御宇良崎なる ねつこ草 相見ずあらば 我れ恋ひめやも  巻14−3508

オキナグサ

キンポウゲ科オキナグサ属

山地の日当たりのよいところに生える多年草。

全体に長い白毛が密生する。

花茎は10aほどになり、鐘形で長さ3aほどの花が下向きに開く。

花びら状の萼の外側は長い白毛でおおわれ、内側は暗赤紫色。

和名は翁草で白毛のある果実に由来する。

花期は4〜5月。

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私の生活圏内では見かけられない花です。

初めて出会ったこの花は、静岡県浜北市平口にある「万葉の森公園」です。

整備されたきれいな公園で、たくさんの万葉花、樹が見られます。

オキナグサに出会ったときは、嬉しくて思わず地面に這いつくばってカメラを向けていました。

近くにはカタクリの花も咲いていました。早春の花ですね。

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宮沢賢治「おきなぐさ」より、

うずのしゅげを知っていますか。

うずのしゅげは、植物学ではおきなぐさと呼ばれますがおきなぐさという名は何だかあのやさしい若い花をあらわさないようにおもいます。

そんならうずのしゅげとはなんのことかと云われても私にはわかったようなまたわからないような気がします。

それはたとえば私どものほうでねこやなぎの花芽をべむべろと云いますがそのべむべろが何のことかわかったようなわからないような気がするのと全くおなじです。とにかくべむべろという語のひびきの中にあの柳の花芽の銀びろうどのこころもち、なめらかな春のはじめの光の工合が実にはっきり出ているように、うずのしゅげというときはあの毛莨きんぽうげ科のおきなぐさの黒朱子の花びら、青じろいやはり銀びろうどの刻みのある葉、それから六月のつやつや光る冠毛がみなはっきりと眼にうかびます。

まっ赤なアネモネの花の従兄、きみかげそうやかたくりの花のともだち、このうずのしゅげの花をきらいなものはありません。

ごらんなさい。この花は黒朱子ででもこしらえた変り型のコップのように見えますが、その黒いのはたとえば葡萄酒が黒く見えると同じです。この花の下を始終往ったり来たりする蟻に私はたずねます。

「おまえはうずのしゅげはすきかい、きらいかい。」

蟻は活?に答えます。

「大すきです。誰だってあの人をきらいなものはありません。」

「けれどもあの花はまっ黒だよ」

「いいえ、黒く見えるときもそれはあります。けれどもまるで燃えあがってまっ赤な時もあります。」

「はてな、お前たちの眼にはそんな工合に見えるのかい。」

「いいえ、お日さまの光の降る時なら誰にだってまっ赤に見えるだろうと思います。」

「そうそう。もうわかったよ。お前たちはいつでも花をすかして見るのだから。」

「そしてあの葉や茎だって立派でしょう。やわらかな銀の糸が植えてあるようでしょう。私たちの仲間では誰かが病気にかかったときはあの糸をほんのすこうし貰って来てしずかにからだをさすってやります。」

「そうかい。それで、結局、お前たちはうずのしゅげは大すきなんだろう。

「そうです。」

「よろしい。さよなら。気をつけておいで。」

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ネジバナ

ラン科ネジバナ属

日当たりのよい野原に生える多年草。

葉の間から10〜30aの花茎をだし、桃紅色で可憐な小花が多数咲く。

花茎は淡緑色で上部がねじれ、毛がある。

花は横に向き、鐘形で平開しない。

和名は捩花(ネジバナ)で、ねじれた花序からつけられたもの。花期 4〜9月。

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なかなかしたたかな花のようで、

可愛いピンク色の花をくねるように咲かせながら、あちこちの野原に強く生きています。

拙宅の庭にもちょっと雑草取りを忘れているとこのネジバナは咲いています。

滋賀県志賀町で白いネジバナを見つけましたので紹介します。

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『万葉集』に詠まれた「ねつこぐさ」は上記の一首のみ。

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