わすれぐさ

忘れ草 我が下紐に 付けたれど 醜の醜草 言にしありけり  巻4−727

ヤブカンゾウ

ユリ科ワスレグサ属

野原に生える多年草。

有史以前に中国から帰化したといわれる。

葉は長さ40〜60a広線状で、若葉はおいしい山菜のひとつである。

葉の間から80〜100aの花茎をだし、上部に径約8aの黄赤色の花を数個つける。

花は雄しべの全部または一部が

花びらのようになって八重咲きになるのが特徴。

中国では憂いを忘れさせてくれる花と信じられていた。

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『万葉集』に詠まれた「わすれぐさ」は五首
 
忘れ草 我が紐に付く 香具山の 古りにし里を 忘れむがため  巻3−334

忘れ草 我が下紐に 付けたれど 醜の醜草 言にしありけり  巻4−727

我がやどは 軒のしだ草 生ひたれど 恋忘れ草 見れどいまだ生ひず  巻11−2475

忘れ草 我が紐に付く 時となく 思ひわたれば 生けりともなし  巻12−3060

忘れ草 垣もしみみに 植ゑたれど 醜の醜草 なほ恋ひにけり  巻12−3062

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古典に登場するヤブカンゾウ(忘れ草)

『古今和歌集』

忘れ草 種とらましを 逢ふことの いとかく難き ものと知りせば  765

 

恋ふれども 逢ふ夜のなきは 忘れ草 夢路にさへや 生ひしげるらむ  766

住吉と 海人は告ぐとも 長居すな 人忘れ草 生ふといふなり  917

 

みち知らば 摘みにも往かむ 住の江の 岸に生ふてふ 恋忘れ草 1111

 

 

『枕草子』 第161段

前栽に萱草といふ草を、ませ結ひていとおほく植ゑたりける。花のきはやかにふさなりて咲きたる、むべむべしき所の前栽にはいとよし。

 

『伊勢物語』 百

むかし、男、後涼殿のはさまを渡りければ、あるやむごとなき人の御局より、「忘れ草を忍ぶ草とやいふ」とて、いださせ給へりければ、たまはりて、

忘れ草 生ふる野べとは 見るらめど こは忍ぶなり 後もたのまむ

 

『和漢朗詠集』

茶はよく悶を散ずれど功をなすこと浅し 萱は憂へを忘るといへども力を得ること微なり

茶能散悶為功浅 萱?忘憂得力微

 

『建礼門院右京大夫集』

とかく物思はせし人の殿上人なりし頃、父おとどの御供に、住吉にまうでてかへりて、州浜のかたむすびたるに、

貝どもをいろいろいれて、わすれ草をおきて、それに縹の薄様に書きて、むすびつけられたし。

浦みても かひしなければ 住の江に おふてふ草を たづねてぞみる

かへし  秋のことなりしかば、紅葉の薄様に、

住の江の 草をば人の 心にて われぞかひなき 身をうらみぬる

 

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