「芋競べ祭」 滋賀県蒲生郡日野町中山 滋賀県日野町中山は琵琶湖の東南部、鈴鹿山系に近い丘陵地にある。800年以上の伝統をもつという神事「芋競べ祭」を訪ねた。 人形が飾られる「はんぎり」を真ん中に、竹で編んだ神さまのお皿、大きな箸も添えられる。供物は、餅・をり・せんば・ぶと・かもうり・ささげの六種。 米の粉をこねて魚の形に作ったもの、紅い色が塗られている。ちょっと早めに神社を訪ねると、この「をり」がいただける。数に限りがあるが、私はゲット。 「山若やまわか」と呼ぶ若者にかつがれている。白装束に裃姿だ。それぞれの集落7人の山若が選ばれている。その内のひとりは黒装束、後ほど神さま役を担う。山若を年長者より順に、一番じょう、二番じょう、三番じょう・・・と呼ぶ。 山若・山子には年令制限があり、山若は16才以上、山子は8才から14才の子どもたちである。いずれも男だ。ところが東谷の集落には該当する子どもがたったひとりしかいないという。ここにも高齢化問題が深刻だ。本来、芋の担い手は山子がするものとも聞いた。山若になる青年たちも集落には少ない。都会の大学や会社に出ていて、今日の祭のためにわざわざ帰ってきてくれた青年もいると、私のそばで見ていた老婆が語ってくれた。 西谷の芋がやってきた。 「大人おとな」を先頭に芋がかつがれる。こちらは山子が5人、それでもこの重い竹と芋は子どもたちだけでは無理、大人も山若もみんなでかつぐ。このような祭礼に子どもたちが少ないのはほんまに深刻。お地蔵さも並んで行列を見てござる。 本殿脇左右に、それぞれの芋が置かれた。 祭礼が執り行われる間、山子たちはそれぞれの芋の監視である。芋の葉っぱをちょん切られてはおおごとだ。東は山子ひとりで監視、西の山子たちはちゃんばらして遊んでいるが。 社務所では、東西の大人・山若が集って、先ずは顔合わせと三々九度の杯で祭儀が執り行われる。酒を配る山若、舞いながらというのだろうか、伝統の作法による酒のふるまいである。 さあ、それでは勝負となって、本殿に置かれた芋を担いで、野神山の祭場に向う。町中を通り、稲田のそばを通り、1`ほど先の小山に向う。といっても東西並んでは行かない。それぞれ別の道をとる。私は西谷の列につくことにした。山子は山若の刀持ちである。元気な山子がひとり芋をかついだ。 祭場入り口からは、参道一列に栗の葉っぱなずうっと並べられている。山子が敷いてくれたらしい。「むかで道」と呼ぶ。どのようないわれがあるのかは不詳。 祭場には小石が敷き詰められていて、竹柵の中で神事は行われる。観客とカメラマンが周囲を囲む。 仮の神殿が左右につくられている。神殿といっても伐木の四柱と竹の屋根と敷石という簡易なものであるが、中央に石がぶら下がる。これは神の依代よりしろであろう。その神殿脇に、神さま役の山若が座る。対面に山若と山子が座る。 いよいよ芋競べかと思ったが、なんのこれから1時間半にも及ぶ祭の儀礼が続いた。 神さまへの献酒が終ると一同拝礼、東西作法が違う。東は扇子を前に置いて礼、西は柏手を打って礼。
その間、山子たちは神事を見ているのだが、もう居眠りをしている子もいる。東谷の山子はひとりだ。大役をひとりでこなさなければならないから真剣だ。 人形の飾られたはんぎりの東西交換、そのいわれもよく分らないが、サッカーの試合前のペナント交換のようなものかな。大きく揺り動かしながら相手方に届ける。 これから、これも作法にのっとった酒宴が延々1時間近く続く。みんなべろべろに酔って、芋の長さがはっきりと測れなくするためともいわれるが。 酒宴が終った。ここで神殿に吊り下げられた神さまの依代である小石が切り落とされた。神さまとの交流が終ったことの宣言であろう。この小石は東西それぞれの山子の足元に置かれた。山子は一年間大切にこの小石を家に預かるという。 続いて山子による相撲神事。土を踏みしめ土に豊穣を祈り、四股(醜しこ)を踏んで稲の害虫や疫病を封じ込めるという相撲の神事である。 さあいよいよ芋競べが始まる。 三番 「じょうじゃくを改めましょうか」 双方三番じょうが身振り手振り踊るようにして芋を打つ(長さを測るということ)。酒に酔ってふらふらなのか、そんな舞いながらの所作である。じょうじゃくというものさしで一回、二回、三回と測るのである。 二番 「双方打たっしゃたか」 と、今度は東西三番じょうが入れ替わって、相手の芋の長さを測る。ふらふらの同じ所作である。 二番 「双方打たっしゃたか」 また、今度は自分の芋を測り直すのである。決着しないと、これが三度、四度繰り返されるという。 そして遂に今日の決着をみたのである。 西三番 「東の芋より西の芋は、一丈も二丈も、三、四丈も長いかと思いましたが、只今の儀につきましては僅か一尺ばかり長う打ちましてござる。」 西の芋が勝ったのである。双方納得をし、お互いの芋を取り替えて、神事は無事終った。 祭場からの帰り道、稲田には黄金色の穂を重たげに稲が垂れていた。今年も豊作だ。 結 |