綱掛祭り

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奈良県桜井市江包

なんじゃ、これは?

立春を過ぎると、農耕を営む人々はまた新しい一年を迎え、その準備が始る。太陽は恵みの陽射しを日一日と強くし、土はその温もりを受ける。
苗代を作り、田植えをしといった農作業を見守ってくれる神、その神を迎える神事が村々では執り行われる。

桜井市の江包と大西の集落では、とてもユニークな「神迎え」の神事が行われる。
その神事は綱掛祭りといい、「お綱さんの嫁入り」とも呼ばれ、素盞嗚命と稲田姫命の結婚式とされる。
去年の実りをいただいた稲の藁で雄綱(男綱)と雌綱(女綱)を作り、その両綱を結合させることで今年も豊かな実りを祈り願う。我々の子孫繁栄にも通じることで、それは神聖であり、とても素朴であり、そしてちょっとセクシーな神事である。


(大西集落) 市杵島神社

9:00 女綱の嫁入り準備は整った。祝い酒が配られ、担ぎ手たちは女綱を高々に担ぎ上げ境内を一周した。女綱は、去年の実りの稲藁、感謝を込めて作られた。周囲4〜5bはあろうか、長さは6b、なんと重さは600`にもなるという。尻尾も長い。およそ100bもある。
これは蛇の形を模したものでもある。蛇は龍にも形を変える。龍神といって「水の神」なのである。農耕に欠かせぬ水の恵みを祈る。

鳥居をくぐり、いよいよ出発である。

神主の祓えを先導に、村中を練り歩く。担い手たちからは「え〜いやこら・・・」の掛け声が飛ぶ。

相当に重い花嫁さんで、50bほど進むと休憩が入る。その都度神酒が振舞われ、担い手たちの顔がほんのり赤くなる。その分ますます威勢があがる。

途中、田んぼに尻尾が引き出された。丸い土俵が作られる。土俵の内には水がどんどん入れられる。どろんこの土俵を作っているのだ。ここで相撲が行われる。
相撲は、古来「相撲すまひの節会」として農耕の良し悪しを占う神事とされている。
そして土に親しみ、土に感謝にし、春の土を踏みしめることで豊かな実りを土に願う。相撲で「四股を踏む」というが、それは「醜しこを踏む」にも通じ、稲の疫病や害虫を防ぐという呪術でもあろう。

先ずは、年男と新婚さんが呼び出された。どろんこの相撲だ。泥仕合である。

この顔、たくましいですよ。今年も豊作間違いなしですよ。

担い手全員どろんこ、神酒も美味い。泥だらけの担い手たちは再び花嫁を担ぎ上げ結婚式場に向った。私もちょっと尻尾を担がせてもらった。尻尾でも重いよ。

(江包集落) 素盞嗚神社

11:00 予定通り、花嫁一行は結婚式場である素盞嗚神社に到着した。そしてここで、花婿を迎える準備が始った。
準備ってどんなこと?とても恥ずかしくて文字にできないから、次ぎの写真で想像をしてください。

実は、花婿さんは一昨日に出来上がった。そして仲人さんから花婿さんのサイズを連絡してきた。直径の長さをである。そして昨日、そのサイズに合う花嫁さんを作ったのだという。
今世話役の方々は花嫁さんの直径を確認し、ぴったりサイズに調整をしている。こちらのサイズが小さくて結合できないでは困るし、こちらが大き過ぎても恥ずかしいし、向こう様も萎縮してしまう、ということである。うむ?なんのことか分るかな。

(江包集落) 春日神社

そのころ、花婿さんの控え室になっている春日神社では、男綱が今か今かと花嫁を待っていた。そして、花嫁到着の一報が入ると、もう花婿はじっとしていられない。担い手に背負われて、勢い鳥居を飛び出して行った。
こちらもなかなか立派な男綱で同じく600`とか、大きさは御覧の通り。

こんな時、男がそわそわするものではない。どっしり構えて花嫁を迎えないと、生涯嫁の尻に敷かれることになる。急く気持ちはよう分るけど、ちょっとここで相撲でもして余裕を見せなあかん。ということで、

花婿、どろんこ相撲にも気はそぞろ、早よ花嫁に逢いたくて逢いたくて。

いよいよ花婿登場である。さすが花婿、ぐんぐんと押し入ってくる。すごい勢いである。

挨拶もそこそこに、いきなりふたりは結ばれる。

ついに、ふたりは仲睦まじく一体となった。これで、子孫繁栄、五穀豊穣は必ず叶う。
思わずみんなの顔が笑顔になった。拍手が起った。無事の結婚式を見届けた安堵で「ふっ」というため息にもなった。

このふたり、5月の中頃まで結ばれたままという。
・・・
この後、身内の披露宴があるということで、私たちは早々神社を後にした。


・・・・・
昼食を済ませ再び神社を訪れると、ひっそりとした境内には男綱と女綱が強く強く結ばれた姿を見せ、子どもたちが不思議そうに触れていた。

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