三井の晩鐘
大津市園城町
園城寺(三井寺)
金堂のそばに、鐘楼がある。
近江八景のひとつ、三井の晩鐘といわれる名鐘である。
三井の晩鐘
むかし、近江の滋賀の里に、一人暮らしの若者がいた。
毎日、琵琶湖へ出て漁をし、京へ売りに行くのが仕事であった。よく働くので、とても評判のよい若者であった。
いつどのようにしてやってきたのか分からないが、美しい娘が若者といっしょに住むようになり、
食事、掃除、洗濯などをよくするので、ふたりは祝言をして夫婦になった。
たいへん夫婦仲がよく、ふたりの間にはやがて子どもが生まれた。
ところがある日、妻は「実は、私は琵琶湖の龍神の化身で、神さまにお願いして人間にしてもらっていたが、
もう湖に帰る日が来てしまった」と泣き出し、止める夫の言葉も振り捨てて湖に沈んだ。
ところで、若者は子どもがまだ乳を欲しがったので、昼はもらい乳をしながら、夜は浜に出て妻を呼んだ。
すると妻は子どもに乳を飲ませ、また湖に帰っていった。いく日か続けていたが、ある日、
妻は自分の右の目玉をくり抜いて、乳の代わりにこれをしゃぶらせてくれと頼んで、しばらく姿を見せなくなった。
夫はいわれるように、目玉を赤ん坊にしゃぶらせると乳が出たけれど、やがて何日もかかってなめ尽くしてしまった。
そこでまた浜辺に出て妻を呼ぶと、こんどは左の目玉をくれた。
妻はもはや目がなくなったので、方角も分からなくなり悲しいうえに、夫や子どもの無事を知りたいので、
三井寺の鐘をついてくれと頼んだ。
このときから、音色のよい三井寺の晩鐘をつくようになった。
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