佐保川 奈良市法蓮町 奈良市法蓮町辺りは今も住宅が立ち並ぶが、万葉の頃もこの辺りを「佐保」といって大宮人の住宅地であった。 大伴氏もここに住んでいた。この街中を佐保川が流れるが、水量も少なく千鳥鳴くような趣は今はない。 大伴旅人、家持、大伴坂上郎女らがこの川の堤を散策したのは遠い昔のこと。 万葉歌碑を紹介しながら、往時の佐保の川原を偲んでみたい。 ・・・・・ 佐保川の 清き河原に 鳴く千鳥 かはづと二つ 忘れかねつも 巻7−1123
大伴坂上郎女が柳の歌二首 我が背子が 見らむ佐保道の 青柳を 手折りてだにも 見むよしもがも 巻8−1432 うち上る 佐保の川原の 青柳は 今は春へと なりにけるかも 巻8−1433
大伴宿禰家持、娘子に贈る歌 千鳥なく 佐保の川門の 清き瀬を 馬うち渡し いつか通はむ 巻4−715 大伴坂上郎女は大伴旅人の妹で家持の叔母になる。 郎女の娘、坂上大嬢が後に家持の妻になる人で、この歌を含む「娘子に贈る歌七首」は大嬢に贈った歌とされる。 法蓮町佐保川堤に、坂上郎女と家持の「初月の歌」の歌碑がある。 坂上郎女が初月の歌一首 月立ちて ただ三日月の 眉根掻き 日長く恋ひし 君に逢へるかも 巻6−993 大伴宿禰家持が初月の歌一首 振り放けて 三日月見れば 一目見し 人の眉引き 思ほゆるかも 巻6−994 ・・・ 「一目見し」人は大嬢のこと、家持16歳の時の歌とされる。 年代の明らかな家持最初の歌で、この「佐保」の地で芽生えた家持初恋の歌かもしれない。 |
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